野田佳彦首相が一旦踏み出したら二度と引き返せないTPP参加交渉に出席するため29日から訪米する。「生活を守るため、何とかして参加を阻止しなければならない」。25日夕、日比谷野音に各界各層から約1万人が集まり「TPP反対」の声をあげた。
農協、漁協、医療、生協、労働組合のノボリや旗が林立する。個人参加の主婦の姿も。会場に集った人々の職種の多さが、TPPによって破壊される分野の広さを物語る。
赤銅色に日焼けした顔の男性(60代・写真)は、千葉県で米を栽培する農家だ。男性は「TPPに参加したら米は90%輸入になっちゃうだろうな。やっていけなくなる。何としてでも阻止する」と悲壮感を露わにする。「(もし野田首相が参加を表明したら)政権を倒すしかない」と口元を引き締めた。
神奈川県在住の主婦は市民感覚でTPP参加に異議を唱える。「米国でホイホイ協定を結んで来ないでほしい。原発、消費税、TPPは全部つながっている」。
マスコミは「農業か工業製品か」の図式に持って行きたがっているが、そうではない。医療分野は国民のほとんどが打撃を被る。
「今の時点で国民皆保険は危なくなっている。保険料を払えなくなった人がどんどん離れていっている。TPPに入れば国保離れはさらに進む。病院にかかれなくなる人が増える」。民主医療機関連合会(民医連)事務局の丸山潮さんは、危機感を持って語る。
民医連がつかんでいるだけでも昨年は25人が、無保険のため病院にかかれず命を落とした。
立川相互病院の看護師・井澤有里美さんは、檀上からのスピーチでさらに具体的に語った。「TPPに参加すれば薬代がアメリカなみに吊り上がる。2万5千円が5万円になる。今でさえ母子家庭で乳ガンを患った人が抗ガン剤をあきらめようとしたケースがある。(TPP加盟後は)金の切れ目が命の切れ目になる」。
東京大学の鈴木宣弘教授のスピーチがTPPの本質を象徴している。「何のためのTPPなのか。ごく一部の大企業とそれを資金源にしている一部の政治家、天下りで結びついている一部の官僚、広告費で結び付いている一部のマスコミ。(野田政権は)この1%の人達の利益のために協定を締結したがっている」。
99%の国民の声に耳を傾けず、1%の超富裕層のための協定を結ぼうとする野田首相とは、どこの国の政治家なのだろうか。
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