群馬県桐生市相生の幹線道路からわずか50~60m入った所に市の汚泥処分場はあった。一見何の変哲もない処分場だ。渡良瀬川の瀬音と野鳥のさえずりが聞こえ、桜並木が続く。桃源郷さえ思い起こさせるほど長閑だ。
ところが福島原発の事故を機に様相は一変する。国の基準(8,000ベクレル)をはるかに超える下水焼却汚泥が事故後間もなく、処分場に持ち込まれたのである。
昨年5月にはセシウム合算が1万6,670ベクレル(桐生市発表)も検出された。国の基準の2倍だ。福島から南西に吹く風に乗った放射能が山裾を中心に降り注いだためである。
23日、市議会議員2人と市民10人が汚泥処分場を視察した。処分場(4,529㎡)の一角に小山のような土盛りがある。問題のセシウム汚染された下水焼却汚泥だ。
約30トンもある汚泥は、花見などで地面に敷く青いビニールシートで覆われているだけだ。ガイガーカウンターを近づけるとガーガーという音と共に、数値表示が「1μSv毎時」を簡単に超えた。
上州名物からっ風の風下には保育園や住宅地がある。子や孫を持つ住民は堪ったものではない。
「傍を流れる渡良瀬川に汚染水が流れ込むのではないかと心配している。孫たちに飲ませる水はすべてミネラルウォーターに変えた。出費が増えて困っている」。近くに住む女性(60代)は顔をしかめた。
自分の畑で穫れた野菜を使いレストランを営む男性は、今回の問題を機に認識を一変させた。「汚泥はドラム缶にでも詰めて置いているのかと思ったら、放置状態だった。野菜を作っているので風評被害が心配。早急に何とかしてほしい。これまで“放射性がれき”や“原発”に興味はなかったが、これを機に関心を持つようになった」。男性は一気にまくし立てた。
住民の不安をよそに行政は能天気だ。視察に立ち合った境野水処理センターの岩崎稔所長は「ビニールシートを被せて隔離しているので違法ではない」と胸を張る。「仮置きをしているだけ」なのだそうだ。最終処分場は「特措法(※)では国が責任を持つ」ので、桐生市に責任はないと言いたげだった。だが国は事実上、自治体まかせだ。
国と自治体による責任の押し付け合いで、犠牲となるのは住民である。
亀山豊文市長は「放射性がれき」の受け入れも表明しており、住民の不安はさらに募る。
《文・諏訪 京/田中龍作》
※(特措法)
放射性物質汚染対処特別措置法
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