
マドゥロ退陣を求める市民は、ベネズエラ空軍最大のラカロタ基地にデモをかけた。星条旗が翻る。米国の影がちらついた。=2019年、カラカス市 撮影:田中龍作=
トランプ大統領が間もなく「ベネズエラへの攻撃を開始する」とCNNが速報して半日以上が経過する。
CNNをつけっ放しにしているが、本稿を執筆している時点(日本時間:5日14時15分)で、まだ戦端は開かれていない。
米国は空母打撃群をカリブ海に展開させ、プエルトリコに急襲揚陸艇と陸上兵力1万5千を待機させていて、最後の最後までマドゥロ大統領にプレッシャーを掛けるつもりだ。
CNNを通じて「間もなく攻撃開始」と伝えたのも最後の脅しである。
1期目の2019年、トランプ大統領は「軍事介入も辞さない」とブチあげた。野党指導者のフアン・グアイド氏と国民はその気になった。
NYタイムズの写真を見る限り、ガイド氏率いる反マドゥロ政権デモは道路を埋め尽くしていた。
SNSは明日にも政権が転覆するような論調であふれた。マドゥロ大統領が国外脱出した、と伝える投稿もあった。

政府庁舎を守るベネズエラ軍。米軍を相手にすることになるのだろうか。=2019年、カラカス 撮影:田中龍作=
田中は押っ取り刀でベネズエラに飛んだ。カラカス空港に着いたが、アメリカと同盟国のパスポートであるため、査問に遭った。職業は「蝶の研究家」とした。
アメリカの2つの取材クルーが拘束されたことを考えると、職業詐称は効を奏した。
カラカスに着いたのはまだ明るい時間だったが、街は死んでいた。首都特有の活気がないのだ。
当時、人口の1割にあたる300万人が国外脱出していた。

マドゥロ大統領と妻。=Wikiより=
トランプ大統領は結局、軍事行動を起こさなかった。米国が出てくるだろうと踏んでいた野党勢力と国民はとんだ肩透かしを喰らった。マドゥロ政権は続くわけだから、野党指導者と支持者たちは国賊となったのだ。
途端、ジャーナリストは邪魔者扱いされるようになった。一緒に動いてくれていた通訳は知らんぷりを決め込むようになった。通訳の雇い主は田中に暗に「早く(日本に)帰れ」と勧めた。
石もて追われるごとくベネズエラを後にしたのだが、田中が出発すると空港はすぐに停電のため封鎖された。間一髪逃れたのだった。
ベネズエラで拘束されている反体制側(政治犯)の人数は838人。(人権NGO「フォロ・ペナル(Foro Penal)」調べ。10月29日現在)
国外脱出者は増え続け昨年末時点で790万人に達している。国民の4人に1人が国を捨てたのである。
トランプ大統領が空手形を切れば犠牲者は増えるばかりだ。慎重な発信を求めたい。
~終わり~
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