船は座礁、転覆しているのではない。湾の出入り口を封鎖するため爆破されたのである。ウクライナ海軍が基地を置くドヌーズラフスキー湾。黒海に向かって油壷を逆さにしたように広がる。壺の出入り口は200メートル足らずだ。
ロシア海軍は6日、大型の老朽船(1973年就役=8,565トン、全長173メートル)を爆破してここに沈めた。水深が浅いため船は船腹をみじめにさらしている。湾内のウクライナ海軍艦船は「袋のネズミ」状態だ。海上戦術のひとつである閉塞作戦である。
ロシア海軍が大胆かつ手荒な作戦に打って出たのは理由がある。6日、クリミア州議会で「ロシアへの編入」などを問う住民投票を実施することが決まった。
事態を憂慮したウクライナ新政権は、湾内の海軍艦船をオデッサ港(クリミアの外)に回し、自らの勢力下に置こうとした。ロシア海軍は新政権の動きをキャッチ、機先を制したのである。即日、強硬策を取る。ロシアの本気度がうかがえる。
日露戦争(1904年)での「旅順港閉塞作戦」を思い出す。東郷平八郎元帥率いる連合艦隊はロシア艦隊を旅順港に閉じ込めるため、そして援軍を旅順港内に入れさせないようにするため自らの老朽船を沈めたのである。
閉塞作戦は失敗に終わったが、当時のロシア海軍は胆を冷やしたはずだ。今回、ロシアが連合艦隊にならったのかどうか、知る由もない。
ロシアは一発の弾を撃つこともなくウクライナ軍を無力化している。一人の死者を出すこともなく戦争は終結する方がよい。