拙宅のすぐ傍に人工地盤の上にできた公園がある。風が吹くと砂が巻き上がって灰色の地盤がむき出しになる。
公園の真下は地下鉄の駅だ。地下鉄の駅の天井に人工地盤が乗っかっている、といった方がいい。
公園の桜がいま満開なのだが、色が悪い。赤黒いのである。「ほんのりと紅がさしたような」桜色とはほど遠い。
「桜は水が命」と教えてくれたのは桜守・佐野藤右衛門さんだった。人工地盤の公園に咲く桜を見て藤右衛門さんの言葉を思い出した。
桜の名所は水辺が多い。皇居の千鳥ヶ淵、京都岡崎の疏水沿い。山にも桜の名所があるが、山は地下水の宝庫だ。
「堀川通りは、水辺ではないのに桜がきれいなのは何故ですか?」と田中は尋ねた。藤右衛門さんの答えは見事だった。
「鴨川が暴れ川だった頃、堀川通りを流れていた。堀川通りには旧鴨川の地下水脈がある。地下水脈の行き着く先が伏見(原文は京都弁)」。
「(堀川通のシンボルである)二条城の庭園には日本で現存が確認されている桜の品種のほとんどがある」と教えてくれたのも藤右衛門さんだった。
大枚をはたいて桜の名所まで行かなくても、あなたの町にも名所があるかもしれない。
拙宅近くを流れる隅田川の運河沿いには、老木の域に達した桜並木(写真)がある。きょう28日あたりから桜吹雪が舞い始めた。川面が薄紅色に染まっていく。
やはり桜はいい。富める者にも貧しき者にも平等に咲く。
~終わり~
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