本邦初登場した大人食堂を取材するため仙台市まで足を延ばした。5年も前のことだ。調理スタッフの多くは学生だった。
「慈善活動をしてるんだ」などといった気負ったところは微塵もない。あどけない笑顔を浮かべながら調理に勤しんでいた。
田中は不意の涙を禁じ得なかった。「俺もあと10年か20年もすれば、こうした子たちのお世話になるのかなあ」と思ったら、感謝の気持ちで一杯になったのである。
年金制度が崩壊すれば、雀の涙ほどの年金も出なくなる。制度が持ちこたえて年金は出ても、とどまることを知らない物価上昇が続けば、食べてゆけなくなるだろう。大人食堂のお世話になり、炊き出しの列に並ぶ日はそう遠くない。
この国の行政は財界には厚いおもてなしをするが、普通の人たちに対しては血も涙もない。庶民たちの助け合いである「共助」を潰すのである。
炊き出しのメッカとして貧困層の拠り所となっていた宮下公園を、渋谷区は三井不動産に事実上献上した。宮下公園はホテルや商店が入った複合ビルとなり、炊き出しはご法度となった。
炊き出しは50mと離れていない美竹公園に会場を移した。すると今度は美竹公園も再開発となり、炊き出し関係者は、またもや追い出される羽目となった。
現在、炊き出しは宮下公園があった場所の北隣の神宮第2公園で、毎週土曜日実施されている(主催:しぶや食堂)。年末年始は12月28日から1月5日まで貧困層に温かい食事を提供する。
全国に一万ヵ所以上ある子ども食堂もボランティアの善意によって支えられている。人の世に善意がなくなったら餓死者が続出することだろう。日本という国は危うい局面にある。
~終わり~