
主食のカレー180食は瞬く間にはけた。=1日夕、渋谷 撮影:田中龍作=
久々に「しぶや食堂」の炊き出しに顔を出した。食事を求めて並ぶ人々の列は以前よりも長くなっていた。主催者も「多くなってるね」と相槌を打った。
当然だ。食料品の高騰に加えてコメ不足。食える方が不思議なくらいの世の中になった。
とりわけコメ不足は深刻だ。「炊き出しをするようになって20年間、コメなんて買ったことがなかった」と話す。これまでは寄付を受けたり、炊き出し団体で融通し合ったりしていたという。
「しぶや食堂」が今回使ったコメは令和3年産の備蓄米。5キロ=1680円だ。1回の炊き出しで20キロ用いる。
コメを買えなくなり麵に切り替えた炊き出し団体もある。
働いても働いても給料は目減りし、行き過ぎた円安で輸入食材は高騰した。あげくにコメ不足である。悪政のために人々は食えなくなっているのだ。
炊き出しは大量の水を使う。かつては区役所の役人から「水(無断で)使ってたよねえ」と嫌味を言われていたものだ。
今、炊き出しの水を使わせないようにしようものなら「人殺し」の誹りさえ受けるだろう。

パンとコーヒーにも列ができた。=1日夕、渋谷 撮影:田中龍作=
炊き出しの列に比較的若い男性がいた。38歳という。海外旅行ツアーの企画会社を経営していたが、円安とコロナで潰れ、炊き出しに並ぶようになった。
友人の家に居候し、炊き出しのない日はカップラーメンで凌ぐ。「時代が変わり過ぎた」。男性は力なく語った。
髪がすっかり白くなった人も目につく。
「年金もらってても並んでる人がいるよ。年金だけじゃ食べて行けないって言ってね」。ベテランスタッフが明かしてくれた。
毎週土曜恒例、渋谷の公園(※)での炊き出しは、正式な記録があるわけではないが、田中が察知しているだけで20年になる。(※再開発のため渋谷区内の公園を転々とした)
主催者側の持ち出しは1回につき2万円。善意には限りがある。悪政がまっとうな人々を食えなくしたのだから、行政が責任を持つべきだ。
この日、用意していた180食は瞬く間にはけた。

男性は湯気の立つお椀を大事そうに抱えた。=1日夕、渋谷 撮影:田中龍作=
~終わり~
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