
道路上に等間隔で登場するマドゥロ大統領の写真。独裁国家ならではの光景だ。=2019年、カラカス 撮影:田中龍作=
命からがらオスロに到着したノーベル平和賞受賞者のマチャド氏は「私を支えてくれた人々のためにもベネズエラに戻る」と力を込めた。
マルコス独裁と戦っていたフィリピンの野党指導者ベニグノ・アキノ氏を思い出す。
氏は心臓病の治療を終えて米国からマニラに帰国(1983年)するのだが、飛行機を出た途端、タラップ上で軍に射殺されたのである。ジャーナリストとフィリピン大衆の面前で、だ。
マチャド氏が帰国すれば、アキノ氏の二の舞となる恐れがある。
独裁とはそうしたものだ。警察や軍を恣(ほしいまま)に動かし、野党は事実上存在しない。三権分立なんぞ無縁だ。安倍政権はこの状態に近づきつつあった。

病院で蛇口をひねったが水は出てこなかった。医師は「手術もできない」と嘆いた。=2019年、カラカス 撮影:田中龍作=
軍事的圧力でベネズエラのレジームチェンジを目論むトランプ大統領が推すマチャド氏にノーベル平和賞・・・というのは矛盾しているとしてマチャド氏受賞に異を唱える向きがある。
現実を知らなさ過ぎる。独裁政権下、言論で民主主義が確立できるわけないのだ。選挙はあったとしても独裁者にお墨付きを与えるためのセレモニーでしかない。
独裁政権を倒すには軍が造反するか、海外の第三国が武力介入する他ない。
ベネズエラでは790万人(5月末時点)が国外に脱出した。国民の4人に1人が故国を捨てたのである。(Wiki)
マチャド氏がBBCのインタビューで「病院に行っても水も薬もない」と語っていた。実際その通りだ。田中も首都カラカスの病院で確認した。
エイズは蔓延している。国の予算を軍事費に回し、わずかとなったエイズ対策費を役人がピンハネしたからだ。
国民はもはや立ち上がる力もない。自力で独裁政権を倒すのは不可能だ。

病院の薬は在庫が底を突いていた。あっても期限切れだった。=2019年、カラカス 撮影:田中龍作=
貧困が進み立ち上がる力がなくなってからでは遅い。日本は「独裁者見習い」が力をつけつつある。「真性の独裁者」となる前に引きずり下さないと取り返しのつかないことになる。
きょうのベネズエラを明日の日本としないために。
~終わり~
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