ウクライナ危機で初めてロシア軍の発砲(威嚇射撃)があったベルベク空軍基地は、同軍による空港占拠が続く。空港入り口の道路はロシア軍の大型トラックで封鎖され、立ち入り禁止となっている。裏手に回って滑走路が見える地点まで道なき道を歩いた。古ぼけた戦闘機一機が目視できた。ロシア空軍はまだ飛来していないようだ。
ロシア軍は兵営までを占拠しなかったため、同基地の広報官が兵営内で取材に応じた―
「ロシア軍兵士300人が3日前(3月2日)、軍用トラック14~15台、装甲車2台で乗り付けてきて、空港を占拠した。4日、基地のウクライナ兵200人が丸腰で『空港に入れさせろ』と近づいたところ、ロシア軍が空に向けて発砲した。20発。『これ以上近づくと足を撃つぞ』と言われた」
空港を明け渡したままの状態がこのまま続くのか。ベルベク基地兵士のマジョリティーはウクライナ系である。辛いところだ。ロシア軍は何と言って来ているのかを広報官に聞いた―
「ロシア軍は数回に渡って基地の司令官を呼びつけ、司令官に『これからクリミアに忠誠を誓うよう』通告した」。
ロシア軍は事実上の投降を迫ったのである。クリミアは親ロシアの土地柄だからだ。しかも政変後はコテコテの親ロシア派であるセルゲイ・アクショーノフ氏が首相に就いている。
「司令官は『我々は国家(ウクライナ)に忠誠を誓っている』と答えた」。投降には応じなかったのである。
《ウクライナ将校の誇りを読めなかったロシア軍》
筆者は広報官に「この先も投降はしないのか?」と尋ねた。広報官は「投降しない」と答えた。「私はロシア系だけどね。軍人としてすべてをウクライナに捧げている」。彼は最後にぽつりと付け加えた。ロシア軍は彼らの誇りを読み切れなかったようだ。
兵営の外にはウクライナ兵士たちの家族の姿があった。事態を知り慰問に駆けつけたのだ。軍規により中には入れないため、母親や妻たちは鉄柵越しにコーヒーやビスケットなどを差し入れた。
「こんな事が起きるとは想像もしていなかった。早く平和になり安定した国になってほしい」。妻と娘に面会した兵士(32歳)は悲しげな表情で力なく語った。