ダラダラと滞在し、借金まみれになるくらいだったら、ここでイスラエル軍に撃ち殺された方がマシか。ロシア軍の砲撃に遭って死んだ方が気が利いているか。
借金への恐怖が蛮勇の原動力になっていたことも確かだった。
だが、目の前で起きていることを世界に伝えなければならない…そう思った時、体の奥底から不思議なエネルギーが湧いてきて、銃声も砲声も怖くなくなる。
ウクライナ戦争の即時停戦という非現実的な認識がある。「即時停戦」という言葉は確かに響きがよい。
だが、実情を見て来た身から言わせてもらうと、即時停戦はロシアによる領土略奪と虐殺と拷問と食料収奪を固定化するだけだ。
ロシア軍は停戦など守りはしない。昨年3月、イルピンに閉じ込められた住民数千人を脱出させるために双方の合意により人道回廊が設けられた。
田中は現地で確認したのだが、ロシア軍は停戦などお構いなしに撃ってきていた。
ラブロフ外相は「ロシアは侵攻しない」とまで言っていたが、舌の根も乾かぬうちにロシア軍はウクライナに攻め込んできたのである。
「ロシアは嘘をつく」。ウクライナの人々にインタビューすると異口同音にこう答える。
「即時停戦」なるお題目が、どれほど非現実的でウクライナ国民にとって酷なことか。
欧州諸国はロシアと陸続きであるため脅威にさらされてきた。彼らが停戦をよしとするはずがない。
ロシアがウクライナを橋頭堡にして自分たちの国へと攻め込んでくる恐れがあるからだ。フィンランドのNATO加盟を見れば分かる。
戦争はなぜ起きるのか。起きた場合、被害を最小限度に食い止めるにはどうすればよいのか。
それらを察知するには係争地に絶えず身を置き、神経を研ぎ澄ましておく必要がある。莫大な取材費がかかるが、日本の読者に真実を伝えるために必要不可欠だ。
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