再掲載【ナゴルノカラバフ報告】進化する楯と矛 極地戦でさえ兵器の実験場

第一次戦争(1988~94年)で山頂のトーチカは、戦局を優位に導いた。だが今ではドローンに狙われる。=ソス村 撮影:田中龍作=

軍事力で勝る隣国に奪取されてしまい、地図上から地名が消えた地域の記事を再掲載しております。外交でどうにかなるものではない国際政治の現地です。オリジナルは2020年12月です。

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 人間の知恵は何と邪悪なことか。紛争地域に取材に行くたびに思う—
 
 今回の戦争で森にこもってアゼルバイジャン軍と戦っていたパルチザンの青年(23歳)は、華奢な体にもかかわらず、重量28㎏の対空高射砲を肩に掛け、敵のロケット弾やドローンを迎撃した。

 パルチザンたちがアルメニア軍から供与されていた対空高射砲は「Igla S」と呼ばれるロシア製の兵器だ。米製のスティンガーミサイルをロシアが真似て改良したのである。

 スティンガーミサイルは、アフガニスタンを掌中に収めたい米CIAが、ソ連軍を駆逐するため、ビン・ラディン率いるタリバーンに授けた兵器だった。

 そのロシア版が、今度はNATO加盟国のトルコにそそのかされたアゼルバイジャン軍の飛び道具を撃ち落とすのである。皮肉という他ない。

 スティンガーミサイルはソ連軍の戦闘ヘリを撃ち落とすなどして威力を発揮した。

 ドローンを使えば撃ち落されても自軍の乗員が死傷することはない。しかも敵を殺傷する精度は数段と向上する。

 州都ステパノケルトの救急病院には次々と負傷者が運び込まれた。ドローン攻撃による負傷者が最多だった。
 
 1日100件もの応急手術に立ち合ったベテラン看護師によると「第一次戦争(92~94年)よりも負傷者の数は増え傷も深い」。

アゼルバイジャン国境付近の大砲部隊。戦争中はドローンを避けて森に潜んでいた。=マルトゥーニ 撮影:田中龍作=

  
 第一次世界大戦(1914~)で戦車が登場し、戦争のステージを変えた。死傷者が飛躍的に増えたのである。現代戦ではドローンが戦場を変えた。

 しかしドローンとて万能ではない。ドローンを撃ち落とす対空ミサイル(据え置き型)もある。Ocaと呼ばれるロシア製兵器だ。

 パルチザンがOcaでアゼルバイジャンのドローンを撃ち落とす場面を動画で見せてもらったが、まるでゲームのようだった。

 ドローンを遠隔操作するアゼルバイジャン軍も、テレビ画面を見ながらのゲーム感覚だったのだろうか。

 楯と矛は進化しながらより悪質になっていく。

    ~終わり~

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