さすがはイスラエルだ。8日、ダマスカスが陥落するとイスラエル軍は間髪を入れず、シリア領内に向けて侵攻した。
ゴラン高原とシリアとの間に設けてある国連の緩衝地帯からシリア領土に踏み込んだのである。イスラエル軍自らが認めている。
緩衝地帯には頑丈なフェンスがある。イスラエル軍はそれを破壊してシリア領土内に入ったとしか考えられない。
ダマスカスの南25㎞の地点まで侵攻している、との報道があるが、イスラエル軍は否定している。
ゴラン高原自体、イスラエルが第3次中東戦争(1967年)でシリアから分捕った土地である。国連安保理決議242および338は、イスラエルによる併合は国際法違反であるとしている。
ゴラン高原の違法併合は半世紀余りも続く。国際社会から轟轟の非難を浴びようが、イスラエルは手放すつもりはサラサラない。
イスラエルの死活に関わるからだ。ゴラン高原は不倶戴天の敵であるレバノンとシリアを眼下に見下ろす。
高原からさらに突き出た丘の上にはイスラエル軍のレーダーサイトがあり、レバノンからのロケット弾発射やシリアからのミサイル発射を一早く探知する。まさしくイスラエルにとって、なくてはならない戦略要衝である。
丘は平時であれば登頂可だが、有事の場合は麓でイスラエル警察から追い返される。
ユダヤ民族は国土を持たなかったがために世界を放浪する羽目となり、散々な目に遭ってきた。ホロコーストはその典型である。
民族根絶やしの危機から辛うじて生き延びた彼らが、やっとの思いで辿りつき、武力と謀略で奪い取ったのが、現在のイスラエルだ。ユダヤ民族がこの地の安全保障に直結するゴラン高原を手放すはずがない。
ここを押さえないとパレスチナ問題は単なる「お勉強会」になってしまう。
イスラエルはその歴史的な教訓から過度なまでに防衛本能が強い。ゴラン高原の安全を確保するために、シリア内部に侵攻するのは当然の流れだ。
シリアはイランからレバノンのヒズボラに武器弾薬を供給するルートだった。ゲリラ戦のセオリーとして後背地は欠かせない。アサド政権の崩壊で、ヒズボラは栄養の供給路を断たれたのである。
中東で無敵だったイスラエル軍にただ一度手痛い敗北を喫せしめたのが、レバノン戦争(2006年)におけるヒズボラだった。
強敵のヒズボラをほぼ無力化させたイスラエルが、どこまで版図を広げるか。それにイランがどう対応するか。
この地域に新たな大混乱が起きないことを祈るのみだ。
~終わり~
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