
イスラエルの新占領地に囲い込まれたモスク。パレスチナでも見たことのない景色だ。ここまでやるか。=16日、イスラエル国境 撮影:田中龍作=
アサド政権が崩壊すると、イスラエルは間髪を入れず、シリアに侵攻した。ゴラン高原の最も高い場所にあるヘルモン山山頂をシリアから奪い取った。同高原はイスラエルの国防上欠かせない。山頂には早速レーダー基地を置いている。
ほぼ同時に国境を接するシリアのクネイトラ地方にメルカバ戦車をなだれ込ませた。
そしてオークとオリーブの木を切り倒し巨大な穴を掘った。戦車の砲撃拠点としたのである。
新政府軍が応戦しなかったため、メルカバ戦車の砲口は火を噴かずに済んだ。昨年12月のことだ。

シリア領に入り込んで“開墾”するイスラエル軍。「これ以上近づくと撃たれるぞ」と村人から制止された。=16日、イスラエル国境 撮影:田中龍作=
田中が国境を訪れるとメルカバ戦車ではなく重機がイスラエルの本領を発揮していた。シリア領に堂々と入り込み“開墾”に勤しんでいるではないか。
重機の巨大なアームが動き、村人たちの貴重な現金収入となるオークとオリーブの木を切り倒していたのだ。砲撃拠点を作っているのか。それともフェンスを作っているのか。
オリーブの木を切り倒し占領地を拡げるさまは、パレスチナを思い起こさせた。
さらに驚く光景に出くわした。イスラエルはモスクまで新占領地に囲い込んでしまったのである。パレスチナにおいてさえここまでしない。
モスクのすぐ周辺の村人は礼拝に行くことはできるが、それ以外がモスクに近づくことはできない。土塁を越えれば射殺される。

イスラエル軍が砲撃拠点を作るため掘った巨大な穴。後ろに見えるのがヘルモン山。=16日、イスラエル国境 撮影:田中龍作=
イスラエルはシリア南部を占領することで不倶戴天の敵イランのノド元に刃を突き付けたいのだろう。
だがイスラエルの横暴が過ぎれば、新政府とてジハーディストたちを抑えきれなくなる。イスラエルは暴発を狙っているフシがある。
やっと訪れた平和が束の間で終わらないことを祈るのみだ。
~終わり~
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