
建物が破壊されているのは化学兵器が使われた後、証拠隠滅のため爆撃されたからだ。=15日、ダマスカス郊外 撮影:田中龍作=
ダマスカス郊外に行くと一望瓦礫野原が広がる。唖然とする。「イスラエルだってここまでしないだろう」と。
アサドの政府軍とロシアとヒズボッラーがこの地域に猛爆撃を加えたのは、反体制派の拠点になっていたからだ。
首都を死守したいアサド政権と攻め落としたい反体制派による熾烈な首都攻防戦は、2011年から内戦終結の2024年末まで続いた。
2013年8月には世界を震撼させる事件が起きた。アサド政権による化学兵器使用である。
それも国連調査団がダマスカスを訪れている最中に使用したのだから隠しようがない。現場からはサリンの成分も検出されたとの報道もあった。

こちらも化学兵器使用後、爆撃された建物。=15日、ダマスカス郊外 撮影:田中龍作=
国際社会はアサドが前々から化学兵器を使っているのではないかとの疑念を持っていた。このため国連が現地調査に乗り出していたのだった。
化学兵器を使用したという証拠の隠滅を図るため、アサドは一帯に猛爆撃を加えた。建造物の破壊が大規模になっているのはそのためだ。
この事件で男を下げたのがオバマ米大統領だった。オバマはちょうど1年前の2012年8月、アサドに対して警告を発しているのだ。「もし化学兵器を使用したら重大な結果を招く」と。
ところがオバマは何もできなかった。アフガンやイラクの二の舞になることを恐れたため、と見る向きが多い。いずれにせよオバマは手を拱いているだけだった。

一望瓦礫野原の中、馬は貴重な動力である。自動車を走らせるガソリンはシリアにあって粗悪で敬遠される。=15日、ダマスカス郊外 撮影:田中龍作=
間隙を突いたのがプーチンだった。「化学兵器を国連管理化に置くよう」アサドを説得したのである。ロイター通信によれば、アサドもプーチンの提案であることを認めている。2013年9月のことだ。
オバマの優柔不断さを見透かしたプーチンは、それから半年後の2014年3月、クリミア半島を電撃奪取する。
陰謀論ではない。時系列を述べたまでだ。国際政治とくに軍事は玉突きで動く。
~終わり~
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