田中龍作が現場から告発した10年 ~こうして雇用は破壊されていった

凶行の現場にしつらえられた献花台。弔問に訪れる人が絶えなかった。=2008年6月、秋葉原 撮影:田中龍作=

 歩行者天国で賑わう日曜日の秋葉原に悲鳴が響き渡った。レンタルトラックで乗り付けた男がダガーナイフを振り回し、買い物客らに斬りかかって行ったのである。手当たりしだい、無差別だった。

 7人死亡、10人重軽傷。「秋葉原 無差別殺傷事件」…マスコミはヘリコプターまで飛ばして大々的に報じた。

 犯人の加藤智大容疑者(当時25歳)の職業が、トヨタ系自動車工場の派遣労働者であることが分かると、マスコミは派遣労働者が犯罪予備軍であるかのように報じた―

 
 「犯罪人予備集団の巣窟と化した人材派遣会社」「リーディングカンパニーが“殺人鬼”を雇い、住まいまで与えていたのだから驚きだ」「今回の事件で“素性の知れない殺人鬼”の派遣受け入れを余儀なくされた自動車部品会社」・・・

 事件発生から10日後、非正規労働者たちのユニオン「ガテン系連帯」がマスコミ向けに説明会を開いた。記者さんたちは派遣の実態を知らなかった。 

 質疑応答に入り、ある通信社の記者が「雇用主に派遣労働者の健康管理義務があるんじゃないんですか?」と間抜けな質問をした。

 雇用主にそういったモラルがあれば、派遣労働者が労災にあったりはしないし、第一、派遣労働が社会問題になったりはしていない。

突然解雇を通告され「寮も出ていけ」と言われた非正規労働者。=2008年12月、参院会館 撮影:田中龍作=

 加藤容疑者は事件の直前、派遣先の工場から「今月一杯で来なくていい」とクビを通告されていた。

 寮に住んでいた加藤容疑者は仕事と住まいの両方を突然失ったのである。いわゆる派遣切りだ。
 
 ゆとりある暮らしを失ったのではない。生きていくのがやっとの暮らしを失ったのである。

 自動車工場の派遣労働者が実情を語ってくれた。「寮費は普通のアパートより高額。冷蔵庫、テレビなど何から何まで給料から差っ引かれる。手元に残るのは2~3万円」。

 仕事そのものも過酷だ。事件が起きた6月ともなれば工場の温度は30度以上になる。熱中症で倒れる労働者が続出する、という。

 加藤容疑者は散々な扱いを受けたあげく、ポイと捨てられたのである。


年越し派遣村。職と住まいを同時に失った非正規労働者たちが夜露と飢えをしのいだ。=2008年12月31日、日比谷公園 撮影:田中龍作=

 
 秋葉原の事件から半年後、リーマンショックを受けて大量の派遣切りが起きる。職と住まいを失った大勢の労働者が日比谷の「年越し派遣村」にたどりつき、命をつないだ。

 40代の男性は、12月30日の夜は都内のビルの地下通路で一夜を明かした。
 
 「寒かった。今夜からはこちら(派遣村)のお世話になれる。有難い」と言いながら、湯気の立つおでんとおにぎりをゆっくりと噛みしめていた。
 
 派遣などという労働形態が作り出されなかったら、彼らは炊き出しや宿泊のお世話にならなくても済んだはずだ。

 終身雇用が当たり前だった30年くらい前までは、父ちゃんが額に汗すれば一家を養っていけた。ところが今はどうだろう。骨をきしませるようにして働いても、食うや食わずだ。

 雇用が守られていれば、貧困が日本を覆うことはなかった。

    ~終わり~

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