進次郎クン、これが父上による雇用破壊だ

事件は2008年に起きた。凶行から1周年の日、弔いに訪れる人が相次いだ。=2009年、秋葉原 撮影:田中龍作=

「自殺者が出る前に摘発して下さい」。派遣労働者たちが泣くようにして厚労省に懇願した。低賃金と苛酷で違法な労働環境の改善を求めて政府と交渉していたのだ。2008年春頃のことである。

交渉から間もなく派遣最大手のグッドウィルが違法な2重派遣で逮捕者を出すのだが、摘発したのは警視庁だった。厚労省は動かなかったのだ。

派遣労働者は濃淡の差こそあれ野宿者と同じような臭いがした。長い間、風呂に入っていないのと衣服を取り換えていないためだ。

この年、「自殺者が出る」では済まない凶事が日本社会を揺るがすことになる。

6月、歩行者天国で賑わう日曜日の秋葉原に戦慄が走った―

レンタカーで乗り付けた25歳の青年が、ダガーナイフを振り回し通行人を無差別に切り付けた。死者7人、負傷者10人を出す惨事となる。

派遣労働者だった青年は勤めていたトヨタ系列の自動車工場から「今月一杯で来なくていい」と解雇を通告されていた。派遣会社の寮に入っていた彼は、職と住まいを同時に失うのである。自暴自棄になるのも無理はなかった。

解雇、即、住まいを失うのが派遣切りの恐ろしさだ。=2009年、日比谷公園 撮影:田中龍作=

年末、住まいと職を同時に失う「派遣切り」が大量に発生した。ある自動車メーカー1社だけで1万人との見解があった。メーカーには下請けがある、それも1次、2次、3次と。電機メーカーの派遣切りもある。

職と住まいを同時に失った派遣労働者は軽く十万人を超えた。彼らのうちの多くは日比谷公園の「年越し派遣村」にたどり着き、夜露と飢えを凌いだ。

派遣村が開村するまで駅構内で寝たという労働者もいた。

手を震わせながら暖かいオデンにありつく姿を忘れることができない。

荷おろし、荷あげ作業のため倉庫に向かう派遣労働者の列。苛酷な肉体労働が待つ。=2010年、西船橋 撮影:田中龍作=

リーマンショックが引き金といえば、いえるが、派遣切りという大災害が起きた理由は実にシンプルである。

小泉(父)政権は労働者派遣法を改正(改悪)し、工場の生産ラインで派遣労働者を従事させるようにしたのである。

「これだけはやってはいけない」という禁じ手を犯してしまったのだ。労働者にとっては地獄だが、経営者にとってこれほど有難いことはない。2004年のことである。

かくして雇用は根底から破壊され、日本は貧しくなった。小泉・竹中の大罪である。 

 ~終わり~                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

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