政府与党が大量の失業者を生み出す法律を作るのか。稀代の悪法がきょう、衆院を通過した。
田中は「労働者派遣法の改悪」が強行採決された衆院厚生労働委員会を非正規労働者たちと共に傍聴した。
採決に先立って補充質疑が行われた。野党議員の質問に対する安倍首相と塩崎厚労相の答弁は、不誠実極まりなかった。語るに落ちたり、答えていなかったりだ。
阿部知子議員(民主)が「期間制限のなかった26業種の方々(専門職40万人)が仕事を失う。その認識があるか否か?」と質問した。
安倍首相は「・・・正社員になったり別の会社等で働き続けることができるように雇用安定措置を義務づけている」と答えた。
安倍首相は専門26業務従事者が3年後に職を失う事態となることを認めたのである。
そこで堀内照文議員(共産)が「3年後直接雇用に結びつくと言い切れるのか?」と聞いた。
塩崎厚労相の答弁がふるっていた―
「そもそも雇用安定措置は今までなかった。努力義務にしか過ぎなかったということでこれを創設すること自体にまず意義を認めなくてはならない・・・」
雇用安定措置は絵に描いた餅に過ぎない。派遣元にとって派遣労働者は派遣先で稼いで来てナンボのものだ。鵜飼の鵜なのである。
派遣先から雇い止めにされた派遣労働者を、自分の会社で無期雇用するほど派遣元(派遣会社)は優しくない。
安倍首相と塩崎厚労相の答弁は「人材派遣会社=天使」説に立っているのだ。人材派遣会社が天使であれば派遣村の悲劇(※)など起きなかったはずである。
この後、渡辺博道委員長が職権で採決を行った。5回目の職権発動だ。労働者派遣法の改悪は自公維による賛成多数で可決された。
きょうの厚生労働委員会は多くの労働者や法曹関係者が詰めかけたため、傍聴席は入れ替え制となった。
宇山洋美さん(56歳)は、専門職として現在の会社(派遣先)に15年以上も勤務している。強行採決に憤りを隠せなかった―
「派遣労働者の声を全く無視した強行採決だ。『3年後には辞めてもらう』と派遣先から言われている。派遣元からは『あなたの年齢では紹介できない』と言われた。絶望しかない」。
今回の法改正(悪)さえなければ、宇山さんは派遣先でずっと仕事ができたはずだ。
「自公の先生に仕事を見つけてもらう・・・」宇山さんは声を詰まらせた。
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※労働者派遣村
リーマンショックによって職と住まいを同時に失った大勢の派遣労働者が、2008年暮れ、日比谷公園に設けられたテント村で夜露と飢えをしのいだ。
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