原作者が長期間かけて取材したことを書き、前双葉町長は体験したことをありのままに述べただけ。科学的な知見の裏付けもある。―それでも「デマだ」「風評だ」とバッシングされているのが『美味しんぼ』だ。
「これは言論弾圧ではないのか?」 我が子の鼻血を心配する福島の母親たちが今夜、政府や福島県に抗議する記者会見を国会内で開いた(主催:福島集団疎開裁判)。
ある母親は匿名を条件に次のように話した―
「小5の息子と小1の娘が、爆発直後からだに発疹が出た。5月ごろ息子が大量の鼻血を出して何度も倒れた。喘息もほとんど良くなっていたのに悪化した。強い薬を何度も飲まないとだめなくらい。白血球もその時かなり減少した。保養に行ったら、薬も塗らずに発疹が消えたり、鼻血も止まったり、喘息の薬も気づけば飲んでなかった」
「小5の息子が『放射能怖い』と訴えてきた。自分の体にいろいろなことが起こりすぎて、恐怖を抱いたんだと思う。『美味しんぼ』については、実際に私たちが経験したことを書いていたので、それを風評とはおかしなことだ。風評を逆に作り上げているのは、逆に原発由来にしたくない人たちだ。私たちに対する口封じとしか思えない」。
記者会見には『美味しんぼ』に実名で登場した井戸川克隆・双葉町前町長も出席した。
「私は(『美味しんぼ』の取材に対して)もっと過激なことをしゃべった。話したことの3分の1くらいしか描かれていない。この国は私たちの避難を妨害している」。井戸川前町長はここでも体験談を披露した。
低線量被ばくと『美味しんぼ』への言論弾圧に対して山本太郎議員が動いた。20日、参院内閣委員会で政府を追及したのである。山本議員の質問内容を要約すると次のようになる―
『美味しんぼ』では放射能の影響で鼻血が出たとも受け取れる表現がある。(安倍首相、石原環境大臣らは、これを風評被害と切って捨てた。菅義偉官房長官は12日の記者会見で、被ばくと鼻血には因果関係がない、とする趣旨のコメントを述べている。ところが自民党は野党時代、鼻血の問題を国会で追及しているのだ。)カッコ内は田中のコメント
福島県選出の森まさこ議員は2012年6月14日、参院復興特別委員会で「子供が鼻血を出した。これは放射能による影響じゃないか、と心配の声が寄せられた」と質問している。山谷えり子議員、熊谷大議員、長谷川岳議員も「事故後の鼻血」について触れている。(自民党の国会議員が風評をバラ撒いたことにならないのだろうか)
山本議員は菅官房長官に「少なくとも原発事故後、鼻血の症状が多く現れたことは事実だと思う。ご理解いただけますか?」と質問した。
菅官房長官は「これについては考えられないと専門家が評価をしている」と否定した。
山本議員は双葉町町民の健康について疫学調査した熊本学園大学の中地重晴教授の論文を基に、原発事故と健康被害の関係を質した。中地論文によると双葉町では体がだるい、めまい、吐き気、鼻血の症状を訴える住民の割合が他地区より高かった。疫学調査の結果データは政府側に資料として渡している。
政府委員の岡本全勝・復興庁統括官は「大学の雑誌に掲載されたということは承知している」として論文の存在だけを認めた。健康被害については一言もコメントしなかった。
データをあげても低線量被ばくを認めたがらない政府に対して山本議員は畳みかけた。北海道がんセンターの西尾正道・名誉院長の論文を政府に突き付けたのである。西尾論文は次のようなものだ―
事故直後の放射能プルームに多量のセシウムの微粒子が含まれており、この放射性微粒子が鼻、喉頭、口腔、咽頭の広範囲に付着すると影響が強く出る。放射性微粒子が粘膜に付着した準内部被ばくという観点から評価すべきである。
鼻血はセシウムが鼻の粘膜に付着した影響で出た、とするものだ。これについて政府はコメントしなかった。
科学的根拠をいくら挙げても低線量被ばくによる健康被害は認めない。それがこの国の行政だ。たとえ言論を弾圧しても。