「原発の稼働は憲法上、人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべき」「豊かな国土に国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失だ」-
関電・大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた福井地裁の判決が波紋を広げている。判決からわずか2日目のきょう、原発立地県の県議会議長たちが原子力規制庁を訪れ、池田克彦長官に「すみやかな安全審査」を要望した。
規制庁を訪れたのは「原子力発電関係・道県議会議長協議会」の4県議会議長(茨城県・飯塚秋男氏/青森県・阿部広悦氏/石川県・吉崎吉規氏/福井県・笹岡一彦氏)。
池田長官に手渡した要望書に「再稼働」という文字はないが、協議会事務局は「(究極の)要望は再稼働」と話した。
池田長官との会談を前に福井県議会の笹岡議長は筆者に「おととい(21日)ああいう判決が出たが、(再稼働に向けた)安全審査に影響するのかどうか、確かめたい」と語った。
池田長官との会談後、笹岡議長が ぶら下がり会見 に応じた。 協議会は「(再稼働に向けた)安全審査のスピードアップを重ねて要望した」という。石川県議会の吉崎議長は「遅れることはありませんか」と念を押したそうだ。
池田長官は「ありません」「司法判断とは別に安全委員会は粛々と審査を進めていく」と答えたそうだ。
地元の大飯原発が「運転差し止め」の判決を受けたことを笹岡議長はどのように受け止めているのだろうか?
「原子力規制庁が科学的な知見を持って審査している。司法はこのタイミングで運転を差し止めたが、規制庁にまさる科学的知見を持っているのだろうか?」笹岡議長は判決への不満をあらわにした。
時をほぼ同じくして衆院会館では原告団の「東京報告会」が開かれていた。400人収容の大会議室は脱原発運動に携わってきた市民たちでほぼ満席になった。
原告団長の中嶌哲演師(明通寺住職=小浜市)が判決を振り返った―
「『フクシマ』がまざまざと実証しているように、(災いは)未来の世代にまで及ぶ。『人格権』と『環境権』を侵害し、『健康で文化的な最低限度の生活』(憲法25条)や『生命・自由・幸福』(同13条)を奪い尽くす原発が、本質的に違法的な存在であることを、わたしたち原告は公判で訴え続けてきた」。
原告団事務局長の「ダーダじい」こと松田正氏が後を受けた―
「この判決は福島の犠牲があったからなんです。健康被害があっても、これが放射能の被害ではないかと疑うことすら中傷されるような社会に対して、判決ははっきりと言った。『人間の生命を尊重することが社会の根幹である。これなくしてこれからの日本も成り立たない』と」
「まさしくこれは道義の問題であり、倫理の問題であります。多数決で決める問題ではないんです」。松田氏は涙を流しながら訴えた。集会の後で「政治の力で原発を動かしてはならないという意味だ」と話してくれた。
市民は司法の良心を味方につけたことで、原発推進勢力とどうにか同じ土俵に立てるようになった。