
トランプ大統領は高市首相の中国挑発に興味はないようだ。=10月29日、米原子力空母ジョージワシントン艦上で 写真:総理官邸HPより=
「その汚い首は斬ってやるしかない」(薛剣駐大阪総領事)。「中国側の正面からの痛撃を受け…頭を打ち割られ血塗れになるだろう」(外交部=外務省・林剣報道官)。
そもそもの火付け役は高市首相だが、中国側の反応が何とも勇ましい。田中は「ソウル火の海」発言(1994年3月)を反射的に思い出した。
北朝鮮の核開発をめぐり板門店で南北実務者協議が行われるなか、北朝鮮側が「戦争が起きればソウルは火の海になる」と発言し、緊張は一気に高まったのである。
米クリントン政権は強硬な姿勢を示した。ペリー国防長官は、北朝鮮北西部の寧辺にある核施設への空爆を主張した。
米国が空爆すれば停戦は破られ第2次朝鮮戦争となる。
ホワイトハウスは最初の90日で米軍兵士の死傷者が5万2千人、韓国軍が49万人と試算した。もちろん北朝鮮側も市民を含め 大量の死傷者が出る(ドン・オーバードーファー著『二つのコリア』より)。
当時ソウルの駐在員達は脱出方法の議論をし始めていた。戦争に備えてインスタントラーメンとカセットコンロが飛ぶように売れた。

束の間でも米国と対等の関係になれ金日成主席は上機嫌だった。=1994年、平壌 写真:カーターセンターより=
幸か不幸か、クリントン政権は誕生ホヤホヤだった。その年の1月20日に大統領に就任したばかりである。
北朝鮮と血を分けた兄弟の中国を巻き込む恐れのある北朝鮮攻撃には踏み切れなかった。
そこでジミー・カーター元大統領を和平の特使として平壌に送り込んだ。金日成主席との頂上会談となった。
カーターは独裁者を説き伏せ、核開発を凍結させた。ホワイトハウスは和平交渉の成り行きをCNNのライブで見守る他なかった。カーターの独壇場だった。
その後、見返りとして日・米・韓は北朝鮮に対して軽水炉型原発を提供し、重油を供与することが決まった。
いずれにせよ、カーター特使のおかげで第2次朝鮮戦争は回避されたのである。
田中は当時の北朝鮮と今の中国を同列に論じようというのではない。地域が緊張した場合、和平の仲介役がいかに大事かということを言いたいのだ。
仲裁者がいなければ、緊張はさらにエスカレートし行き着く所まで行く可能性さえある。火消し役なき高市の火遊びはこの上なく危険だ。
~終わり~
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