
旧ソ連の核流出が取り沙汰された時、名前が挙がったのがリビアだった。=2011年、トリポリ 撮影:田中龍作=
ロシア軍の手が目前に迫るクリミア半島のウクライナ軍ミサイル基地を訪ねたことがある。ウクライナは旧ソ連構成国内で最大の核保有国だった。
ダメ元で取材を申し込むと、基地の副司令官はいとも簡単に基地内に入れてくれた。写真撮影はNGという条件だった。
副司令官は「核はウクライナ本土内にすべてあった」と答えた。ミサイルという核の運搬手段に携わっていた軍幹部から、核の存在を聞けたことは収穫だった。
ロシアは奪取したクリミア半島に核貯蔵施設を置いた、というのが定説だ。
ウクライナはブダペスト覚え書き(1994年)に基づき保有していた核をすべて手放している。理由は二つ。
▶「核を手放せばウクライナの安全を保証しますよ」とロシアに唆(そそのか)され、みすみす乗ってしまった。
▶経済困窮で核の管理が難しくなった。
手放した核はすべてロシアに渡った。「安全を保証しますよ」とは真っ赤なウソだった。

旧ウクライナ軍ミサイル基地。中に入ると地平線が見えるほど広大だった。クリミア半島を奪取したロシア軍はここに核兵器を置いた、というのが定説だ。=2014年、クリミア半島 撮影:田中龍作=
そのロシアもソ連崩壊(1991年)前後、核の管理が危ぶまれた。カネに困った軍関係者や核技術者が核をリビアや北朝鮮などに横流しするのではないかと憂慮されたのである。「すでに横流しした」との観測もあった。
このためアメリカのエンジニアが核を解体するためソ連に飛んだほどだ。
田中はその核エンジニアに直接話を聞いた。彼が話しやすいようにトイレで待ち受けて。
エンジニアはソ連に解体に行ったことは認めたが、第三国への流出は否定した。
「It’s rumour (それは噂だ). It’s rumour」。頬をこわばらせながら首を横に振り同じセリフを二度繰り返した。不自然さは拭えなかった。
日本の政府高官が「(日本も)核を持つべき」とオフレコ発言し、内外に波紋を広げている。
日本はこの先、経済がさらに悪化するだろう。何より政治家のモラルが低い。法治国家と呼ぶことさえ憚られる。崩壊時のソ連のようになるだろう。
日本がもし核を持ったら、法律を守ることに無頓着の政治家が横流ししないとも限らない。東アジアのみならず世界は危うくなる。
~終わり~
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