「廃炉」の2文字がちらつく敦賀原発を所有する日本原電の濱田康男社長が、血相を変えて原子力規制庁に乗り込んできた。
原子力規制委員会は22日午前、「敦賀原発2号機の真下を走る破砕帯が活断層である」とする専門家会議の評価報告書を了承した。濱田社長はこれに異議があるというのだ。原子力規制庁を訪れたのは、この日の夕方。巻き返しに向けた動きは素早かった。
国の指針(※)によれば、活断層の真上にある原発は運転できない。「活断層である」とする専門家会議の評価は、日本原電にとって死活問題となる。
社長は対応した原子力規制庁の櫻田道夫審議官に「公開質問状」なるものを手渡した。質問状の内容は「原子力規制委員会の審議の進め方」「データの解釈の仕方」など16項目から成る。
「活断層ではない」ことを証明する新事実は含まれていない。日本原電がこれまでに規制委員会に提出したデータばかりだ。データが正当に評価されていないというのだ。
「(了承された)報告書は事業の運営に大きく影響する」。濱田社長は規制庁の櫻田審議官に憮然として言い放った。株主総会を来月に控え神経質になっていることもあるのだろう。
規制庁幹部にねじ込んだ後、ぶら下がり記者会見に応じた濱田社長は「(評価結果を)当社として受け容れられない」と話した。腹わたは煮えたぎっているのだろうが、冷静さは保っていた。さすが日本原電の社長だ。筆者のような瞬間湯沸かし器ではない。
「再稼働申請はするのか?」と記者団に聞かれた濱田社長は「破砕帯(活断層)の問題をクリアにして(再稼働)申請させて頂きたい」と答えた。
「評価がくつがえると思っているのか?」と問われると「理解を得るように努めたい」と述べた。
~田中委員長「変えるつもりはない」~
原子力規制委員会の田中俊一委員長はきょう午後の記者会見で筆者の質問に「(専門家会議が出した)科学的判断をくつがえすだけの科学的事実(新しい知見)が出てくれば別だが、(そうでなければ)変えるつもりはない」ときっぱり言った。
筆者は田中委員長の上記の見解を挙げたうえで濱田社長に「新しい知見は出るのか?」と質問した。社長は「出すように頑張ります」。精神論で答える他なかったようだ。
新しい知見が出なければ廃炉が現実味を帯びる。日本原電にとって事態は相当に厳しい。
~原子力村、総力あげて評価くつがえしに~
日本原電(株)の有価証券報告書(第55期・平成24年3月31日現在)によれば、原電の大株主の状況は上位10社のうち8社までが電力会社だ。
1位は東京電力で28.23%、2位は関西電力の18.54%、3位以下は中部電力が15.12%、北陸電力が13.05%、東北電力が6.12%、電源開発が5.37%、九州電力1.49%、中国電力1.25%と続く。
1位から8位までの電力会社保有株を合計すると89.17%になる。ほぼ9割だ。9位は日立製作所、10位がみずほコーポレート銀行、11位が三菱重工業。
役員の出身だが、取締役にはプロパー社員あがりもいるものの、東電前会長の勝俣恒久氏を始め、元電源開発社長、元東北電力社長、元中部電力社長、元関西電力社長などが名を連ねている。電力会社の社長・会長を務めた人物が役員に就任するのがならわしだ。
電力会社のための電力会社、原発メーカーと原発を支える銀行のための電力会社。それが日本原電だ。活断層をめぐる評価は、一敦賀原発の問題に限らないのである。今後、原子力村が総力をあげて規制委員会の評価をくつがえしに掛かって来ることが予想される。
◇
※国の指針
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」