政府が自治体に半ば強要する形で推し進める「放射性瓦礫の広域処理」が、各地で住民の反発を呼んでいる。横浜市役所では50人余りの市民が28日、「瓦礫を受け入れないよう求める」要請文を林文子市長に直接手渡そうと市長室に押しかけた。
林市長は瓦礫の受け入れを横浜市議会が承認したのでもなく予算がついたのでもないのに、政府による『みんなの力でがれき処理プロジェクト』の発起人に名を連ねている。これが市民の不信感と反感を増幅させた。
50人余りの市民が定例記者会見を終えて応接室から出てくる市長を待った。子供を連れた母親が目立つ。「ガレキ受け入れ反対」「子供をこれ以上被曝させるな」…廊下にはプラカードや横断幕が翻った。
秘書課の職員と守衛が市民の前に立ちはだかる。林市長に近寄らせないようにするためだ。ピリピリとした空気が張りつめた。
市長が応接室から出てくると、市民たちが雪崩を打つように駆け寄った。「林市長、(要請書を)受け取って」「横浜市民の声を聞いて」…悲鳴のような母親たちの声が廊下に響き渡った。
要請文を手にした女性は、秘書課職員や守衛の脇をかいくぐり市長に近づいた。だが市長は固くガードされ応接室隣の市長室に消えて行った。女性は「手を伸ばせば髪をつかめる位の距離だった」と悔しがる。
『hamaosen対策協議会』の本橋一美共同代表は「要請文を市長に直接渡さず、普通に出したのでは秘書課の職員が受け取るだけで終わってしまう」と直接行動に出た理由を話した。
要請文を渡そうとした女性は、小3の娘に弁当を持たせているのだが、給食の時間は居心地が悪い。「学校給食は安全です」と先生が教育委員会の指示にしたがって宣言したためだ。娘は不登校気味になった。
都筑区のゴミ焼却場近くに住む母親は市長室に向かって「これ以上被曝させられるのはゴメンだ」と涙ながらに叫んだ。
横浜市では昨年10月に築年数の浅いマンションの屋上から原発事故由来のストロンチウムが検出された他、汚泥に高濃度の放射性物質が含まれていたことなどが明らかになっている。こうした下地が市民を直接行動に駆り立てたのだ。
市長への抗議行動の後、市民たちは横浜市資源循環局と交渉を持った。ある母親が質問した。「行政はセシウムばかりを発表する。猛毒ストロンチウムやコバルトも出てるのに。これはどうなるんですか?」
資源循環局の答えがふるっていた。「私たちは判断できる立場にはありません。国が決めることですから」。あまりの無責任ぶりに筆者は怒鳴りつけたい気持ちで一杯になった。
「瓦礫の広域処理」をめぐって国はウソをついていた。ほとんどの瓦礫の仮置き場は市街地にはない。復興の妨げとならないのである。全国の自治体に瓦礫を引き取らせる根拠はなくなったのだ。
国のウソと自治体の無責任で強行されようとしている「瓦礫受け入れ」で、犠牲となるのは住民である。
◇
『田中龍作ジャーナル』は読者の支援金により維持されています。