降って湧いたような話とはこのことだった。昨年8月、国立競技場すぐ傍の都営霞ヶ丘住宅の住民は、都の説明会のため日本青年館に集められた。
「オリンピックとラグビーワールドカップのため競技場を大きくしなくてはならない。皆さんは移転して下さい」。
正確に言うと、都営霞ヶ丘住宅は新国立競技場の敷地(11万3,000㎡)には含まれない。だが新国立競技場の敷地に含まれる明治公園が移転してくるため、都営霞ヶ丘住宅は玉突きで立ち退くことになる。
日本スポーツ振興センターによると、昨年7月に新国立競技場の建設コンペを発表した際、霞ヶ丘住宅は再開発エリアに含まれていた。
国と都が事前協議し、住民には何も知らせないまま取り壊しを決定していたのだ。(住民説明会は昨年8月)
東京都都市整備局に確認した。都の担当者は「昨年国立競技場を建て替えることが決まった際、協力する形で潰すことに決まった。昨年の決定なのでオリンピックとは関係ない」と説明するのだが。
都営霞ヶ丘住宅(約224世帯)は明治公園に隣接する閑静な住宅街にある。昭和35年(1960年)から40年(1965年)までに建設された。「築・半世紀余」。老朽化が目につく。だが、JR、都営地下鉄、東京メトロの駅から徒歩数分の場所にあり、交通は至便だ。
「静かで、交通の便も良い。緑も多い。年寄りだから住み慣れた所を離れたくないんだけど、そんなこと言えないからねえ」。都営霞ヶ丘住宅に住んで50年余りになる主婦(75歳)は淋しそうに話した。
「東京オリンピックの年にここに来て、今度はオリンピックが決まったら出て行く。皮肉だねえ」。彼女は来月下旬にも新宿区百人町の都営住宅に引っ越す。