イチョウ並木が危ない 始まりは五輪利権 

神宮外苑イチョウ並木。=1日、都内 撮影:田中龍作=

 名画『第三の男』を現代版にリメイクするとしたら、映画史上に残る名ラストシーンの再現は、ここでしか撮れないのではなかろうか。

 世界中を歩いてもなかなか見つからないほど見事な、神宮外苑のイチョウ並木が今、枯死の危機に晒されている。

 カネの亡者と化した大手不動産業者や東京都が目論む神宮外苑再開発がイチョウ並木を追い込んでいるのである。

 再開発に伴い新神宮球場はイチョウ並木との距離がわずか8mの所まで迫り(現在は約50m)、杭が地下40mの深さにまで打ち込まれるため、地下水の流れが変わるのだ。

 146本のイチョウは樹齢100年を超す老木である。根枯れも見つかっている。専門家がイチョウの枯死を指摘するゆえんである。

 田中は夏の真っ盛りにイチョウ並木のトンネルをくぐった。葉の匂いを含んだ冷気のシャワーに体が生き返る思いだった。

 カフェでコーヒーを啜る。散歩を楽しむ。人々の憩いの場として長く親しまれた外苑のイチョウ並木が危ないのである。

旧国立競技場の南隣には都立明治公園があり、さらにその南隣に都営霞ヶ丘住宅(10棟・約400世帯)があった。五輪期間中(2021年)はTVスタジオとなっていた。=2016年7月 G氏撮影=

 外苑の緑が危機に晒されるようになったのは、新国立競技場の建設からだ。

 風致地区それも最も厳しいA地区だったため建物の高さは15mまでという制限があったが、80mにまで緩和された。

 以後、なし崩しとなり、今では190mの高層ビルの建設も計画されている。50~60階建てのタワービルが建つのである。

 国立競技場建設により、五輪利権が規制を撤廃させ、環境と人々の暮らしを破壊したことが明らかになった。
 
 都営霞ヶ丘アパートの跡地が東京オリンピック(2021年)のためのテレビスタジオとなっていたことは、拙ジャーナルでもリポートした。

 住民は明らかに蔑ろにされていた。

 アパートの住民説明が開かれた時(2012年8月)にはすでに取り壊しが決まっていたのである。

 今、同じことが繰り返されているのだ。

背後にあるのが国立競技場。=1日、都内 撮影:田中龍作=

 再開発のために緑豊かな神宮外苑の景観を破壊する。再開発の中心には神宮球場や秩父宮ラグビー場の改築がある。

 スポーツ利権で主要メディアも一体となっているため真相が明らかにされない。

 映画『第三の男』の舞台となったウィーンは第二次世界大戦で荒廃したが並木は残った。

 日本は戦争に突入する前にイチョウ並木を枯らしてしまうのだろうか。

     ~終わり~

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