日曜の午後、新宿を歩くとアルタ前の広場が賑やかなことに気付く。オジさん、オバさん、お姉さん、お兄さんが代わる代わるマイクを握って、思い思いのテーマでスピーチをしているのだ。
6年前から始まった街頭アピールはきょうで482回目を数える。途中、新宿西口、秋葉原、神保町に会場を移したこともあったが、今やアルタ前の日曜名物ともなっている。
主催者のAさん(自営業者)は街頭アピールを始めた理由を次のように語る。
「新聞テレビが本当のことを言わないので、真実を言う場が必要だった。マスコミとは全く違う観点からスピーチしなければならなかった」と。
初期の頃からの弁士Bさん(会社員・都内在住)のスピーチに引き込まれた—
「岩盤規制が私たちの生活を守ってきた。岩盤規制が撤廃されるということは、私たちの生活が破壊されるということ」
「昔と同じく大本営発表が繰り返されているとしたら、(現実は)180度違うことが蔓延している」。
Bさんの情報源は人だ。ヒューミント(human intelligence の略)である。元官僚や当事者に会って情報を得るのだそうだ。
Bさんの懸念は、もともと意見を言わなかった日本人がさらに物言わぬようになったことだ。「特に左の人間が黙っているのが恐ろしい」と深刻な表情で語る。
野党の衰退を見れば、Bさんの懸念も頷ける。
日本人は大人しくなったのだろうか。2014~2015年頃の街頭アピールは、1回(1日)につき15~16人がマイクを握っていた。20人を数える日もあった。反戦歌を唄う人もいた。
今では10人を切る。少ない時は5~6人という。
主催者のAさんは「朝日と産経が同じことを言い始めた時はヤバイ」と指摘する。「悪い政治には怒っていいとも」と洒落た。
100人いたら100通りの意見があって当然なのだ。人々が自由に声をあげる場があることは、この時代貴重だ。
「抵抗しなかったら権力者とそのお仲間から踏み潰されてしまう」。Bさんの言葉が新宿の雑踏に吸い込まれて行った。
~終わり~
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