
学術会議法案に反対の声をあげる市民。=11日正午頃、参院前 撮影:田中龍作=
学問が戦争遂行に貢献した戦前戦中の反省に立って発足した日本学術会議が、戦前に回帰しそうだ。
学問の砦を特殊法人化し政府の管理下に置く「学術会議法」が、きょう11日、参院本会議で自公維の賛成多数により可決成立した。
NHKを見れば分かるように特殊法人は時の権力に左右される。軍国政権になれば軍部の言論機関となる。いつか来た道である。
5年前の光景がまざまざと浮かぶ。菅義偉首相が学術会議候補者6人の任命を拒否したのだ。権力による学術会議攻撃の嚆矢だった。事実、自民党はそれを機に現行の学術会議を解体する議論を本格化させた。
権力が放った鏑矢に気づき危機感を抱いたのが著述家の菅野完氏だった。氏は「言論の自由が奪われる」と抗議して官邸前で命懸けのハンストを決行した。絶食は24日間にも及んだ。

学術会議解体の鏑矢を一早く察知した菅野完氏。=2020年、官邸前 撮影:田中龍作=
一方ブンカ人、市民運動界隈、学識経験者らの反応は鈍かった。数回、官邸前で声をあげたくらいだった。
時の権力が仕掛けてくる反動化に抵抗する運動は、いつもこんな調子だ。法案が国会に上程されてからやっと重い腰をあげて騒ぎ始める。
国会に上程されてしまった時は、すでに立法化が決まっているのだ。遅きに失しているという他ない。

元文科次官の前川喜平氏にインタビューする韓国MBCのクルー。日本のテレビ局は1社もいなかった。=11日13時30分頃、参院前 撮影:田中龍作=
11日、学術会議法が可決成立した直後、議場から出てきた杉尾秀哉参院議員(立憲)は、座り込みを続けてきた人々を前に、声を詰まらせながら「止められなかったことは申し訳ない」「マスコミがもっと早くこの問題を大きく報道してくれていたら違っていたと思う」と悔やんだ。
この日、日本のテレビ局の姿は一社もなかった。韓国の代表的なテレビ局MBCは密着取材を敢行していた。
韓国は軍国主義の日本に蹂躙された屈辱の経験を持つ。歴史に学べない日本人と違って、日本が再び軍国主義に向かうのではないかとの懸念があるのだ。
日韓のジャーナリズムの問題意識の差が、如実に表れた日でもあった。
韓国市民は不正をしでかした大統領をデモで引きずり下ろす。日本の市民は権力に巻かれる。
~終わり~
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