ご主人様と従者の日米関係にあって、にわかには信じ難いツーショットがあった。首相官邸ならともかく雑居ビルに間借りする民主党本部を米国のルース駐日大使が訪問、鳩山由紀夫代表と面会したのである。2009年9月3日のことだ。
鳩山氏が国会で首班指名を受け、民主党政権が誕生するのが9月16日だから、この時点では鳩山氏はまだ一政党の代表に過ぎない。
自らが大枚をはたいて立ち上げた政党の本部に米国の駐日大使を呼びつける。「対等の日米関係」を掲げ「政権交代選挙」を戦ってきた鳩山氏にとって、これほどの面目躍如はなかった。 “よくもアメリカ側が応じたものだ” 筆者は変な胸騒ぎを覚えた。
予感は的中する。選挙期間中に公約した「普天間基地の県外移設」の実現が難しくなり、鳩山氏はマスコミの袋叩きに遭う。そもそも半世紀以上続いてきた沖縄米軍基地が、すぐさま移設できるわけがないことは高校生でも分かる。
県外移設発言をめぐるマスコミの「鳩山叩き」は異様だった。巨大な黒幕の存在を感じざるを得なかった。
外交の現場を知り尽くす元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「なんでこの人(鳩山氏)を追い出したのか?…(中略)マスコミが大きな役割を果たしている」と指摘する。(太字は孫崎氏発言)
孫崎氏は日本人がマスコミ報道に疑いを持たないことを憂う。「日本人の60~70%が新聞・テレビを信用している。アメリカ人は25%」と氏は分析する。
郵政民営化を争点にした2005年の総選挙は「コミ選」と呼ばれた。小泉政権がマスコミを通じて徹底的に情報操作をしたのである。郵便局が民営化されれば、何から何まで世の中が良くなるように喧伝された。外交や福祉が郵便局の民営化とどんな関係があるのか、不思議で仕方がなかった。
マスコミはいまTPP推進の旗振り役だ。孫崎氏は「TPPは日本の主権を冒す」「TPPの一番の犠牲は(日本の)医療保険」と警鐘を鳴らす。
郵政民営化は米金融資本の圧力によるものだったことがすでに明らかになっている。日米構造協議の交渉にあたったことのある知人の元トップ官僚は「郵政民営化のスケールを大きくしたのがTPPだ」と話す。
日本のマスコミは米国の利益に沿った報道を信条とする。まるで米国の広報部のように忠実だ。
「権力がメディアを使うのは当たり前」と孫崎氏。日本にとっての権力とは米国なのである。鳩山氏が掲げた「対等な日米関係」は今や、死語である。
孫崎氏は著書『戦後史の正体』で、報道されてきた政治家像がいかにウソであるかを暴き、知られざる外交の舞台裏を解き明かした。次は『マスコミの正体』を書いてほしいものだ。
《文・田中龍作 / 諏訪都》