この国が東電と共に沈むことを確信した夜だった。15日午後7時から東電は記者会見を開き、新会長のお披露目と総合特別事業計画の発表を行った。
4月1日付けで下河辺和彦・現会長(66歳)の後任となるのは、東電の社外取締役でJFEホールディングス相談役の数土(すど)文夫氏(72歳)。
鉄鋼メーカーの経営に長く携わった数土新会長は、経営基盤の確立のために東電にも競争の原理を持ち込むべしと説いた。
数土氏は、「総括原価方式と地域独占に安住していた」と指摘する。前段で「ビジネスモデルの大転換を進める」と抱負を語っていた。タブーに触れ、それを変えるというのだろうか。にわかには信じ難い。
とくに総括原価方式は電力会社の力の源泉だ。総括原価方式によってもたらされる資金力が政界を支配してきた。選挙のめんどうをみてきた。
原発事故処理にかかる費用を電力料金の値上げに転嫁できる。税金も投入される。これを政府が認めるのも総括原価方式のおかげだ。総括原価方式は電力会社も政治家も潤してきたのである。
筆者は上記を説明したうえで「総括原価方式を転換したりしたら、新会長はハシゴを外され、惨めな辞め方をしなくてはならなくなるが?」と突っ込んだ。
新会長は「これ(総括原価方式)があるために日本の電力料金は韓国の2倍もするアメリカの2倍もする」としたうえで「現内閣は私に対して“ 総括原価方式には関わるな ”と言ってきた」と明かした。
爆弾発言である。筆者は「総括原価方式にメスを入れるのか?」と畳みかけた。新会長は「取締役会で原価を明らかにし、社外取締役にも明らかにする」とかわした。
バカ高い電気料金を国民が負担する一方で政界と電力会社を潤すシステムは生き延びるのである。資本主義の原理などあったものではない。
ゾンビ企業と呼ばれる東電の経営立て直しを図ろうとする「総合特別事業計画」は、記者会見の2時間前に茂木敏充・経産相から承認を得た。記者会見は大臣の御墨つきをもらったことを誇示するねらいもある。
計画によれば2020代初頭まで「年間1,000億円規模の利益を創出」、2030年代初頭まで「年間3,000億円規模の利益を創出→4・5兆円」とバラ色の未来を描く。
これらの数字は柏崎刈羽原発1号機、5号機、6号機、7号機の再稼働を前提としたものだ。原子力規制委員会の審査結果しだいでは、認められないかもしれないにもかかわらず、再稼働することになっているのである。
総合特別事業計画によれば「今年7月をはるかに過ぎても再稼働できなければ、秋ごろまでに(電力料金の)値上げは必要と見通される」。
廣瀬社長は「あらゆる手立てを講じて値上げをしないようにしたい」と強弁した。だが事務方は「再稼働の是非は(値上げの)大きな分岐点になるでしょうね」と話す。
東電と安倍政権はなりふり構わず柏崎刈羽原発を再稼働させるだろう。「電力料金の値上げは回復しかけた景気に水をさす」などと口実をつけて。再稼働させなければ、東電に巨額な貸付をしている金融機関がパニックとなるからだ。
来週木曜日(23日)告示の東京都知事選挙は「原発」が争点となっている。東京都は東電の大株主であり、最大の電力消費地である。脱原発の都知事が誕生するのか、原発推進の知事となるのか。
原発推進勢力は一枚岩だ。東電の無理心中におつきあいしたくないのであれば、脱原発勢力も一枚岩になる他ない。