「世界一安全な原発を輸出する」。安倍首相の豪語とはウラハラに日本の原発の輸出先での安全対策は、「あなた任せ」の丸投げであることが、環境団体などの追及で分かった。それ以上に驚いたのが、25億円もの巨額な資金が収支もはっきりしないまま、政府から日本原電に支払われていることだった。
追及の対象となったのは、ベトナムのニントゥアン第2原発。100万kWの原子炉2基が建設され、2021年から発電を開始する。事業規模は1兆円。ベトナムとの間で原子力協定を締結した日本は、原発建設の優先的交渉権を得ている。
きょう午後、参院会館で経産省と環境団体などが交渉を持った。
2009年(平成21年)度、「低炭素発電産業国際展開調査事業」なる名目の事業に20億円(19億9,000万円)がついた。気が遠くなるほど長い名称だが原発輸出のための調査費だ。
経産省は調査を行う企業を入札で募った。だが応札したのは日本原電1社のみ。20億円はすでに日本原電に支払われている。
20億円という支出は巨額である。すべては我々の血税で賄われている。環境団体などが、内訳を尋ねたところ、経産官僚は「ベトナム側に確認をし、事業者の不利益にならないように…」と答えた。
「収支報告書を開示してくれと言ってるだけですよ。 税金から出ているのにどうして答えられないんですか?」 環境団体は食い下がったが、経産官僚は同じ答えを繰り返すだけだった。
2年後の2011年(平成23年)度、5億円の事業費が追加された。日本原電の随意契約だった。
その理由を追及すると、経産官僚は「追加調査なので日本原電に落とした。それが適切かどうかは外部有識者に依頼して審査を行った」と説明した。
外部有識者の名前は「個人情報」として拒んだ。これも変だ。税金で賄われる事業であるのに、審査した有識者の名前を出せないというのは理屈が通らない。
「透明性のあるプロセスで決めるべきだ」。環境団体が厳しく指摘した。
日本原電は原子力規制委員会が敦賀原発下の破砕帯は活断層であると断定しても、「活断層ではない」と言い張る電力会社だ。輸出先での調査を任せて大丈夫なのだろうか。
同席していた社民党の福島みずほ議員は「日本原電を救済するのか?」と突いた。
日本原電の株主は上位10社のうち8社までを電力会社が占める。9位が日立製作所、10位がみずほコーポレート銀行、11位が三菱重工。電力会社保有株の合計は約9割だ。
役員は、東電前会長の勝俣恒久氏をはじめ、元電源開発社長、元東北電力社長、元中部電力社長、元関西電力社長などが名を連ねる。
電力会社のための電力会社、原発メーカーと原発を支える銀行のための電力会社。それが日本原電だ。「敦賀原発」に廃炉の危機が迫る今、政府をあげて日本原電を救済しようと考えても不思議はない。
~ 安全体制は相手国に依存、売りっぱなし ~
追加予算5億円の出所は復興予算からだった。被災地復興のための予算がなぜ原発輸出に? 誰しもが疑問を抱く。
経産官僚の答えがふるっていた。「被災県のなかに原子力関連機器の企業があり、(原発が輸出されれば機器が売れて)経済的に潤う」というのだ。こじつけもいいところだ。
「強弁ですよ。(ベトナムでの)調査がなぜ復興に資するのか。復興予算ではないから返した方がいい」。福島議員が語気を強めた。
安全対策はさらにお寒い。原発輸出に対しての安全対策について問うと経産官僚は「立地(相手)国が行う。輸出する側が審査してしまうと審査自体に問題がある」。
福島議員が質した―「ベトナムには原発がない。これから規制当局をつくるのだから、日本と同じ程度の審査を行うべき。むこうがユルユルの基準でも日本はゴーサインを出すのか?規制と推進は分離が原則。日本の原発事故を踏まえた厳しい基準が反映されていない。安全の担保がない」。
日越原子力協定では、日本はベトナムの原子力廃棄物を引き取らないことになっている。売りっぱなしなのである。
経産官僚は「輸出する際、相手国の法の整備体制は確認する。確認されない限りは輸出しない」と説明した。だが、これは建前さえ整っていれば輸出するということだ。
これでは「3・11」前と何も変わるところがない。教訓は活かされていないのだ。
「相手国の体制に依存するなら『世界一安全な原発』の看板を降ろしてください。嘘のセールスはしないで欲しいと安倍さんに言って下さい」。環境団体代表は厳しく注文をつけた。