放射能が降り注いだ瓦礫をわざわざ全国各地に運んで燃やし海に埋め立てる。公益性と安全性に大きな疑問符がつく広域瓦礫処理が、「お白洲」の場に引きずり出された。
大阪府と大阪市による震災瓦礫の焼却と埋め立ては、健康に深刻な被害をもたらし、被災地の復興にもつながらないとして住民が差し止めを求めていた裁判の第1回目の口頭弁論がきょう大阪地裁であった。
訴えたのは大阪はじめ関西の住民260人(原告)。大阪地裁最大規模の202号法廷の原告席には住民59人が入廷した。原告席につく人数のあまりの多さに裁判所側はパイプ椅子を出して対応した。「がんばってや~」傍聴席から声援が飛ぶ。
訴状によると――
被告の大阪府と大阪市は東日本大震災で岩手県宮古地区に生じた瓦礫を持ち込み、焼却した後、海洋に埋め立てる計画だ(1月24日、提訴時点)。瓦礫は総量3万6,000トンにものぼり、体に有害なセシウム134、137や石綿(アスベスト)を含有している。
瓦礫の広域処理事業は健康に深刻な影響を及ぼすうえ、被災地復興への有効性、必要性に対して大きな疑問がある―として原告は人格権、環境権に基づき放射性災害廃棄物(震災がれき)の大阪府内(大阪市も含む)での焼却、埋め立て処分の差し止めを求めている。
瓦礫の放射能濃度は100Bq/kg(被告の最大計画値)で国の基準以下だが、持ち込まれる瓦礫の総量は3万6,000トン。
3万6,000×1000×100=36億ベクレルもの放射性物質が大阪府一円に流れ込むことになる。住民の間に健康被害が出ても何ら不自然ではない放射能汚染だ。
原告の意見陳述で大阪市中央区に住む足立義子さんは次のように述べた―
「小学校3年の息子がいるが、将来、息子の健康に影響が出るのではないかと心配。40人以上の市議会議員に“汚染瓦礫の焼却をやめてほしい”と訴えてきたが、昨年7月(市議会で)予算が可決されてしまった。息子には花粉用メガネとマスクをつけて登下校させている。24時間空気清浄器を動かし、水も買っているので家計の負担も重く感じる。国、自治体は放射能から子供を守らずになぜ傷つけることばかりをするのか。苛立つ毎日です…(後略)」。
瓦礫焼却をめぐっては反対の立場を表明する住民が警察に多数警察に逮捕された。大阪市は昨年11月に試験焼却を強行、今年2月からは本格焼却が行われている。住民の不安を尻目に、なりふり構わず瓦礫焼却に突き進んだ行政の姿があった。
「子供が目を充血させる」「(自分も)ノドの調子が悪い」「鼻炎状態」……原告にインタビューしたが、子どもや自身の体調不良を訴える声ばかりだった。
拙宅は東京都中央区の晴海焼却場のすぐそばだ。東京都が震災瓦礫を燃やし始めた昨春以降、筆者は鼻やノドの調子が悪い。
今回の問題で注目すべきは岩手県の震災廃棄物の総量が当初の見積もりより大きく減ったことである。当初の見積もりでは総量132万700トン。うち82万600トンを岩手県内で処理するとしていた。
ところが後に(昨年5月)総量76万9,000トンと見直されることになった。岩手県内で処理できる量なのである。県外に持ち出す理由はなくなったのだ。
瓦礫の輸送は莫大なコストがかかる。被災地の住民からは「そんな金があったら被災地復興に回してほしい」との声が聞かれる。
『絆』の美名のもと、住民の健康を犠牲にしてまで、強行しなければならない公益性は、果たしてあったのだろうか?