福島原発事故で政府のスポークスマンとして「ただちに影響はない」「メルトダウンはしていない」…と安全神話を振り撒いた枝野幸男官房長官(当時)。『国会事故調』は27日、枝野氏を参考人として招致し事情を聴取した。
枝野氏は予想を裏切らずあらん限りのレトリックを弄して、委員や傍聴人を煙に巻いた。詭弁番長の面目躍如である。
福島県代表の蜂須賀禮子委員(大熊町商工会会長)は、政府の安全デマに翻弄された無念さを包み隠すことなく枝野氏を質した――
「私たちは何の情報もなかった。枝野さんの口から出ることはすべて正しいと思いながら避難していた。大臣(枝野氏)の言う言葉通り右に行き、左に行き“安全だ” “安心だ”と思いながら来た」。
「原発(事故)のリスクを我々に言って頂いていれば、こんなにも長い時間、荷物も持たないまま家を離れることはなかった。“ただち”にはないけど将来的にはあるのだと思うのが住民。“念のために”という言葉も使っていた。今後、こういうことはあってはならない。こういう言葉を私たち避難者に対して政府は発出すべきではない」。
枝野氏は意外にも率直に非を認め、次のように謝罪した。「被害に遭われた皆さんには大変なご迷惑をおかけしている。皆さんに対して役に立つ情報の発信がもっとできたのではないだろうか。それに資する説明ができなかったのは本当に申し訳なく思っている」。
崎山比早子委員(元放射線医学総合研究所主任研究官)は、住民の健康面から考えると「ただちに」という言葉の使い方が間違っていたのではないか、とする趣旨の質問をした―
「枝野さんは、(事故による放射線量は)胸のレントゲンやCTスキャンと同じだと繰り返した(※)。医療は選択の権利があるが、原発事故はそれがない。比較したことについてどう思うか?」
ここから枝野氏は三百代言の本領を発揮する。
「マイクロシーベルトが全くわからないまま説明してもいけないと思ったから、例えばということで言った。他に参考になる数字がなかった」。
崎山委員が「年間の被曝量と比べれば良かったのではないか」と畳み掛けると、枝野氏は詭弁も鮮やかに切り返した。「公衆被曝年間1ミリというのは人間が決めた数字。自然界、医療で用いられている客観的な数字を使う必要があった」。
崎山委員はなおも「ただちに」を追及した。「急性障害の意味で使ったのか?」
枝野氏は、それを否定したうえで「3種類の使い方をした」として一つ一つ例を挙げた―
1、基準値を超えたものを口に入れた場合を含めて、ただちに影響が出るものではない。
2、屋外退避地域に外から商品を運んで来てくれないため、外に行って荷物を運ぶことで健康を害するわけではない。
3、少なくとも急性被曝にはならない地点、低線量についてもすぐには影響が出ない、という意味で使った。
枝野氏は健康被害がすぐには出ない低線量被曝のみをあげつらった。見事なまでのいい逃れではある。晩発性障害を恐れ不安でたまらない親が聞いたら激怒するだろう。
事故発生時から枝野官房長官が吹聴した「安全デマ」は、今なお政府への不信となって尾を引いている。被災地瓦礫の焼却問題で行政が「安全だ、安心だ」と説いても、住民が聞く耳を持たないのも当然だ。日本人がいくらお人好しだからと言って、同じ相手(民主党政権)に幾度も騙されない。
《文・田中龍作/諏訪京》
(※)
崎山委員によれば、枝野官房長官は「レントゲンと同じは3回、CTスキャンは5回」繰り返した。
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