東電福島第一原発事故の自主避難者は20日、損害賠償の枠組みを決める「原子力損害賠償紛争審査会」で意見陳述する。前々日にあたる18日、自主避難者が紛争審査会の事務局が置かれている文科省と加害企業の東電を訪れ、真っ当に賠償をするよう要請した。脱原発を掲げて行動する俳優の山本太郎さんも加わった。
自主避難者とは政府が指定した避難区域外で暮らしていたが、被曝を避けて遠くに移り住んだ人たちだ。避難区域外でも区域内より線量の高いエリアで生活していた人たちが多い。
仕事や家などの生活基盤を捨てざるを得なかったため、困窮を強いられている。政府が福島第一原発から同心円を引いて避難地域を決定したことから、現実にそぐわない不幸な事態が発生した。
紛争審査会が8月に発表した中間指針では、自主避難者は損害賠償の対象には入っていない。自主避難者が18日、要請行動を起こしたのは紛争審査会と東電のネジを巻くためだ。
福島市から山形県米沢市に自主避難した西片加奈子さんは、小学校3年生と5年生の子供を持つ。通わせていた小学校は福島市内で最も線量が高い。母子家庭で生活は厳しかったが、子供の命と健康には代えられないことから、仕事を捨てて福島市を“脱出”した。貯金を取り崩しながらの生活が続く。
文科省を訪れた西片さんは、原子力損害賠償対策室の新岡輝正係長に訴えた――
「除染することを理由に避難をさせない、現在の国と自治体の政策には問題があります…(中略)…避難費用や生活費などに対する補償が幅広く認められるべきです」
山本太郎さんが続いた。「(自主避難者が)求めているのは当たり前の権利です。それが守れない役所だったら存在する意味がない。税金を払っていいのかな?と皆思う。市民団体がここに来ること自体がおかしい。役所は先回りして国民の命を守らなければならない。ちゃんと仕事をしてほしい。」
文科省の新岡係長は「いただいた意見は真摯に受け止め検討してゆきたい」。絵に描いたような官僚答弁だ。
東京電力では別館に通された。本館に入れるのは有力議員の紹介があるか、全国規模の大組織だけだ。この場合は取締役が対応するが、別館だと部長クラスだ。相手の足元を見るところが、いかにも東電らしい。
福島原子力補償相談室の橘田昌哉部長が要請を聞いた。福島市から自主避難して現在は東京都内に住む杉本渉さん(33才)が「仮払いはまだですか?生活してゆけない」と訴えた。酒店を経営していた杉本さんは、東京で仕事を探す毎日だ。西片さん同様、貯金を取り崩しながら毎日を凌いでいる。
東電の橘田部長は「紛争審査会の指針に沿って対応してゆきたい。自主避難者への仮払いは今のところ考えていない」と突っぱねた。予想通りだ。
橘田部長の対応は彼自身の判断ではない。経営陣の方針に沿ったものである。経営トップは十分に政府や民主党と打ち合わせ済みだ。紛争審査会とは、東電の損害賠償の範囲をできるだけ狭くするための存在に過ぎない。自主避難者の要請行動がそれを炙り出した。