「住民は東電に騙されるんじゃないか、と思ってる」 原子力損害賠償紛争審査会 ~上~

原子力損害賠償審査会で誇らしげに説明する東電・廣瀬常務(手前)。被害者への補償が、さも順調に進んでいるかのようだった。=20日、文科省。写真:筆者撮影=

原子力損害賠償審査会で誇らしげに説明する東電・廣瀬常務(手前)。被害者への補償が、さも順調に進んでいるかのようだった。=20日、文科省。写真:筆者撮影=

 東電福島第一原発事故をめぐる損害賠償の枠組みを決める「原子力紛争審査会」の15回目の会合が20日、開かれた。

 東電の廣瀬直己常務取締役が賠償の現状を説明した。「仮払いについては1,335億円の振込が済んでいる」「仮払いは中間指針に沿って網羅的に行っている」「被害に遭った方は漏れなく請求できるように書類を用意した」…誇らしげで淀みない。史上最悪の原発事故を引き起こした電力会社とは、まるで無関係の人物のような口調だ。

 廣瀬常務はやたらと「中間指針に沿って」を強調した。それもそのはずだ。中間指針は、賠償金額が格段に膨らむ自主避難者への賠償を含んでいないのである。

 廣瀬常務の説明どおりだったら、被災住民からの夥しい苦情は何なのだろうか。

 大塚直委員(早稲田大学大学院教授・法務)が質問した。「中間指針には慰謝料における生活費の増加分が触れられているが、(東電の)書式にはその欄がない。改良するつもりはあるのか?」。

 廣瀬常務は次のようにかわした。「『その他』の欄がある。(増加分の欄を)記載すると『これは良くて、これはダメ』ということになる。先ずはお問い合わせ下さい」。

 問い合わせても増加分が認められないから問題になっているのである。子供だましにも等しいその場逃れだ。

 大塚委員が「現場の窓口では、『書式にないものは指針に反する』と説明する担当者もいるようだ」と詰め寄った。廣瀬常務は「誤解を生みかねない対応をして申しわけない」と、ようやく東電の落ち度を認めた。

 この後、被災者の法律相談にあたっている渡辺淑彦弁護士が意見陳述した――

 「東電常務の話を聞いて怒りに震えている。交通事故の示談でさえ加害側から『これでどうでしょうか?』と示談を持ってくる。なのに東電は(被害住民が書類を)出さないとカネを出さない。東電が手伝うと言ってるが、住民は「東電に騙されるんじゃないか」と思っている…」。

 渡辺弁護士も家族を東京に避難させている(自らはいわき市で弁護士活動を続ける)。身勝手な説明を終えた東電・廣瀬常務は、この時すでに会場を後にしていた。自主避難者への補償がこの日のテーマであったにもかかわらず、だ。渡辺弁護士の怒りも廣瀬常務の耳には届かなかったのである。かりにその場にいたとしても、馬耳東風で聞き流しただろうが。

 紛争審査会の委員に原子力村の代理人はいても被害者側はいない。東電の賠償額を少なくするための会議であることを改めて思い知らされる。 (つづく)

自主避難者への補償は中間指針から漏れた。「賠償を求めるのは当然の権利」とアピールする自主避難者たち。(同日、文科省前。写真:筆者撮影)

自主避難者への補償は中間指針から漏れた。「賠償を求めるのは当然の権利」とアピールする自主避難者たち。(同日、文科省前。写真:筆者撮影)

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