経産省は首相をないがしろにして原発の運転再開に突き進み、原子力安全委員会は、経産省・保安院に原発の安全管理を丸投げしていた――東電福島原発事故の惨禍を経験してなお、原発をめぐる国の安全チェック体制はあまりにもお寒い。11日、それがあらためて明らかになった。
この日午後、内閣府4号館で原子力安全委員会が開かれ、北電泊原発3号機の定期検査実施状況が議題にあがった。
調整運転が続いていた泊原発3号機をめぐっては、菅首相が「全原発を対象にストレステストを実施するよう」指示した(7月7日)にもかかわらず、経産省・保安院はその翌日、最終点検に入った。
「調整運転は稼働中であり、再稼働には当たらない」としてストレステストは2次評価だけで済ませたい――既成事実づくりに邁進した経産省・保安院の姿があった。
経産省のこうした強引過ぎるやり方に対しては、原発推進派の高橋はるみ北海道知事でさえ不快感を示し、海江田経産相に質問状を出していた。肝心の菅首相は経産省・保安院だけの判断だけで営業運転に移行することに反対していた。ところがもう一つのチェック機関であるはずの原子力安全委員会はあてにならなかった。
11日の原子力安全委員会では、経産省・保安院が「泊原発の総合負荷性能検査を9日と10日で終えた」「検査で不適合は発生しなかった」と述べ、安全性を強調した。安全委員会に出席した保安院の担当者は立板に水のごとく「あれもいい」「これも良かった」と説明した。時間にして10分余りだった。
説明を聞いていた筆者は背筋が寒くなった。保安院は建前上とはいえ取り締まる機関である。これでは暴走族を取り締まりにあたった警察が「車両の改造もなかった」「スピード違反もなかった」と述べているに等しい。
呆れる他ない保安院の説明が終わると、原子力安全委員会の3人の委員が何ら当たり障りのない質問をした。「今回の定期検査で安全委員会が留意するような事象はなかったか」などと聞くのである。出来レースの見本だ。当然、保安院の担当者は判で押したように「問題ない」と答えた。
質疑が終わると班目春樹委員長から仰天発言が飛び出した。「定期検査は規制行政庁である保安院が責任を持って合否を判断する」。
班目委員長は原発の安全管理を保安院に丸投げしたのである。
「安全委員会は何もしないということか?」
「だから(福島原発の)爆発事故が起きたんだ」
「事故前と何ら変わりないじゃないか」……
傍聴席は騒然となった。これには下地がある。原子力安全委員会に先立って、国会内(衆院会館)で「泊原発3号機」をめぐるヒアリングがあった。この席で原子力安全委員会事務局の薮本順一係長(内閣府)が「安全委員会には(原発)を止める権限はありません」と答えていたのである。この時も場内は騒然となった。
班目委員長は議事を先に進めようとしたが、傍聴者は収まりがつかず、怒号が飛び交い続けた。「二重チェックはパフォーマンスですか」、「泊が動く(営業運転)なんてことになったら北海道の人は震撼しますよ」……怒号が図星だったのか、耐えかねた班目委員長は休会を告げ退席した。この日の委員会はそのまま散会となった。
原子力安全委員の月収は委員長が106万円、委員が93万円と高額である。保安院の報告を追認するだけで、だ。電力業界と経産省の言いなりにさせるための報酬とも言える。
原発の安全性についての国のチェック体制は、これほどまでにマダラメ・デタラメであることがイヤというほど明らかになった。このままの体制で原発の運転が再開されればまた事故が起きる。