被曝しながら暮らすのは御免だ。とはいえ引っ越すにはまとまった金を必要とする。福島県や近県などに住み自主避難を強いられている411世帯が12日、東京電力に対して総額11億7千万円余りの損害賠償を請求した。
政府による避難区域の指定を受けていないものの空間線量が高く、チェルノブイリ原発事故の避難区域並みに土壌が汚染されている地域に暮らす人々は、膨大な数にのぼる。行政の支援や東電からの賠償金を得られないため、自腹を切って避難することになる。自己資金に乏しい人たちは避難しようにも避難できず被曝に怯えながら暮らしている。自主避難者の置かれた現状はむごいと言わざるを得ない。
東電による損害賠償の枠組みを決める原子力損害賠償紛争審査会の中間指針がまとまったが、自主避難者は枠から漏れた。紛争審査会は「自主避難者への補償については今後の議論」としたが、待っていたら生活が立ち行かなくなる。被曝も進行する。
こうした事態を受けて「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」が自主避難者に請求書を出すよう呼びかけた。総額11億7千万円、一世帯当たり293万円の請求となった。項目は「宿泊費=約15万5千円」「引っ越し代=29万7千円」「休業損害=140万9千円」などとなっている。
12日午後、「法律家ネットワーク」の福田健治弁護士と自主避難者たちは東電本店(内幸町)を訪れ、411通の請求書を福島原子力補償相談室の紫藤英文部長に手渡した。
分厚い請求書を受け取った紫藤部長は「紛争審査会の議論を踏まえたうえで適切に対処する」と答えた。紛争審査会の事務局は霞が関の原発事故関係省庁が仕切る。東電に不利な結論が出る可能性は低い。紫藤部長はそれを十分に認識したうえで「紛争審査会の議論を踏まえて」と述べているのである。狡猾だ。
福島市から東京に自主避難している杉本渉さん(33才)が、東電の悠長な姿勢に耐えかねて次のように迫った。「枝野官房長官は『自主避難者にも適切な賠償が行われるよう東電を指導していきたい』と述べたが…」。
それでも紫藤部長は「紛争審査会の議論を踏まえて適切に対処したい」と答えるのであった。この後も福田弁護士らがいろいろな視点から賠償の支払いを求めたが、紫藤部長は判で押したように「紛争審査会の議論…」と答えた。
東電は避難区域の住民に対する仮払いも踏み倒した“実績”があり、易々と損害賠償請求に応えるとは考えにくい。
東電の体質をよく知る福田弁護士は、損害賠償請求を紛争審査会の下に置かれ和解を仲介する「紛争センター」に持ち込むことに意欲を示した。
【請求書】