
マイダンの戦いで治安部隊に射殺された息子の遺影に花を手向ける母親。=2022年2月、開戦から5日前 激戦地だった大統領府への坂道 撮影:田中龍作=
ロシアの侵攻終結に向けて、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国と協議した和平案を24日までに公表した。
苦悶する人々の顔がまぶたに浮かぶ。
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2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに雪崩れ込んで来ると、街から女性の姿は消えた。道路は西に向かって脱出する車で渋滞した。
田中はロシアがウクライナに侵攻する2ヵ月前(2021年12月)から現地で取材をつづけてきた。
足かけ9ヵ月をかけてウクライナほぼ全土を回り国民の声を聞いた。
畑に鍬を入れていた農家の婦人は、目を吊り上げながら「ロシア軍は一人たりともウクライナ領土に入れない」と話した。
公園のベンチに腰を下ろしていた老夫婦は「ロシアはいつもウソをつく」と吐き捨てた。
ロシアへの領土割譲を認めるウクライナ国民は一人たりともいなかった。
侵攻から3年以上経ったいま、人々は戦争疲れで軟化していることも考えられるが。

「NATOに入りたい」。旗を掲げてデモ行進する老人。=2022年2月、開戦12日前 キーウ市内 撮影:田中龍作
ゼレンスキーは大統領選挙の実施をのんだ。法律(2015年制定)で戒厳令(戦時)中、選挙はできないようになっているため、法改正が必要になる。
プーチン側は「(ロシアが武力支配する)ドンバス地方の人々にも投票権を」と主張する。
親露派の人物を大統領にインストールすれば、人々の猛反発を買いマイダン(2013年~14年)のような市街戦状態となるだろう。
親露派の御仁たちが「マイダンはクーデター」と吹聴しているが、それはプーチンのナラティブだ。
人々が蜂起した理由は―
EU加盟を国民との間で約束していた親露派のヤヌコビッチ大統領(当時)が約束をホゴにしてしまった。
EU入りそしてNATO入りは国民の悲願なのである。ロシアの圧政に苦しめられた人々がそう願うのは当然である。
田中の通訳をしてくれていた青年の祖父はレーニンの悪口を言っただけで極寒の地に流刑となった。
農地のメカニズムを無視したスターリンの悪政で飢饉が発生し300~700万人が餓死した。ホロドモールである。
2件とも20世紀に起きた悲劇だ。昔の話ではない。ウクライナの民にとってはプーチンもスターリンも変わりない。

「ロシアに帰りたくない」。ウクライナの人々の血を吐くような叫びだ。=2022年2月、開戦12日前 キーウ市内 撮影:田中龍作=
話をマイダンに戻そう。治安部隊は最後まで市民を射殺していた。決してクーデターなんぞではないのだ。
ロシア側に都合がいいような和平案となれば、ウクライナ国民は納得しない。
一方、プーチンはロシアがウクライナを属国化できるような和平案でない限り、軍事侵攻を続けるだろう。
ウクライナに真の平和が訪れることはない。悲劇の国家である。
~終わり~
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