開戦からひと月と経たぬうちに占領軍司令官が東京に乗り込んできた。占領軍司令官とはフロマン通商代表(※)のことだ。
先の戦争でマッカーサー元帥が厚木に降り立ったのは、開戦から4年後だった。フロマン通商代表の“上陸”の早さには驚くばかりだ。戦後70年近く経って日本の属国化が進んだと見ることもできる。
21世紀のマッカーサー元帥は、第2のポツダム宣言ともいえる「TPP無条件降伏」を日本に迫るために18日、成田に到着した。
日本政府は米、麦、豚肉・牛肉、乳製品、サトウキビの5品目を聖域として守りたがっている。「そうはさせない」―フロマン通商代表は「関税撤廃に例外はない」とする米国のスタンスを押し付けるために来日したのである。
フロマン通商代表は7月18日、米下院歳入委員会で「いかなる例外も認めていない。日本はすべての品目を交渉対象とすることに同意していることが重要だ」と証言している。
TPPに反対する集会がきょう、首相官邸前で開かれた(呼びかけ:TPPを考える国民会議)。折も折、フロマン通商代表を乗せた車列は集会をあざ笑うかのように官邸の中に入っていった。
昨年末の総選挙前までTPPに反対していた超党派の国会議員200人余りを束ねていた、山田正彦・元農林水産相がマイクを握った。
「米多国籍企業の代理人であるフロマン通商代表が来日している。与党だけと話をし、野党の代表とは会ってもくれない。首根っこを押さえつけられているようだ。日本の中にもこういう(我々のような)抵抗勢力がいることを分からせる必要がある」。
山田元農水相らは情報収集のため、22日から開かれる「TPP交渉会合」の会場となるブルネイに向かう。
米国はブルネイでの会合で交渉妥結を目指しているものと見られる。中間選挙を来年に控えており、年内に妥結させなくてはならない事情があるからだ。お家の都合を日本に押し付けるところがいかにも米国の政権らしい。
山田元農水相は各国の交渉官と接触している友人から得た情報として「ブルネイでの交渉が日本にとって最初で最後の交渉となるだろう」と悲観的な見通しを明らかにした。
TPPの交渉内容は向こう4年間公開されない。山本太郎参院議員はそれに憤る。「TPPは僕たちの生活を根底からくつがえす。なのに国民の代表である国会議員にも交渉内容を明かさない。有権者への冒とくでもある」と。
2人の子供(3歳と5歳)を持つ母親の訴えは痛切だ。「遺伝子組み換え食品が自由に入ってくるようになれば子供たちの健康も危うくなる。安倍さんの寿命は限りあるからいいが、子供たちの将来はなくなる」。
1945年から日本を軍事占領し続ける米国は、段階的に日本経済を支配下に置こうとしてきた。TPPはその総仕上げとも言える。政治家にその気概がないのであれば、市民が生活者の立場から不買運動などで米国に抵抗する手段が残されている。
「ヨコにつながるしかない」。山本議員がいみじくも言うように。
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(※)マイケル・フロマン通商代表:
USTR(米通商代表部)代表、50歳。前大統領副補佐官(国際経済担当)。プリンストン大学で外交を、ハーバード大学で法律を学んだ。元シティグループの幹部で、G8サミットのシェルパとして通商問題を担当したほかG20やFTA交渉にも関与。オバマ大統領とはハーバードロースクール時代に学内雑誌の編集長を前後して務めた間柄で盟友だという。USTR代表就任の宣誓では「アメリカの輸出を増やすために全てのツールを使う」と発言して話題に。