米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイの岩国基地入港はあまりにもあっけなかった。
非記者クラブ員を乗せた取材船は23日午前4時を少し回った頃、東洋紡埠頭を出た。星ひとつない漆黒の闇、ベタ凪の海を取材船は静かに進んだ。
米軍への提供水域との境に差し掛かると取材船は停まった。オスプレイ12機を積んだ民間輸送船「グリーンリッジ」(3万2,326トン)を待つためだ。「輸送船はあっちから来る」。船長が指差す方向に周防大島の島影がぼんやりと浮かぶ。
海は海上保安部の船だらけだ。巡視船、艇、大小のゴムボート計20隻が、輸送船の通る海域を警戒した。
空が白み始める頃だった。沖にグリーンリッジが突如として姿を表した。遠目からでも巨大な船であることがわかる。取材船は全速力でグリーンリッジに向かった。
筆者の貧弱な200ミリ望遠レンズでも捉えきれる所まで達した。もっと接近しようとすると海保の巡視艇が白波を蹴立てて近づいてきて「それ以上東に入らないように」と警告した。
グリーンリッジはあっけなく米軍が占有する提供水域に消えた。手も足も出ない。日本国民にとっての日米安保を象徴しているようであった。
グリーンリッジが岩国基地に接岸して間もなく、反対派は漁船、ゴムボート、カヤックで遠巻きから抗議した。基地にもグリーンリッジにも声は届かない。
森本敏防衛相は22日、民放の報道番組で「(配備を遅らせれば)部隊の運用に穴が開く。抑止機能が下がることが周りの国に分かるようになる。これだけは、どうしても避けたい」と語った。
「夏の電力不足を乗り切るために」と称して原発を再稼働させるのと、危機感の煽りが同じだ。
これまでオスプレイは配備されていなかった。それでも抑止力が低下した、などとは聞いたことがない。原発がすべて停止していても電力供給に余力があったのと同様だ。
国民の声などどこ吹く風と、オスプレイは配備され原発が再稼働する。嘘で塗り固めた防衛政策、エネルギー政策はいずれ破たんする。
《文・田中龍作 / 諏訪京》
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