東京電力の原発事故により被曝した、福島の子供たちの父母らが30日、国会内で避難の促進・支援を求めて政府と交渉した(主催:子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク/福島老朽原発を考える会/FoE Japan/グリーン・アクション/美浜の会/グリーンピース・ジャパン)。
子供や妊婦をはじめ福島の住民の多くは今なお放射線量の高い地域に住まざるを得ない状況にある。政府が20mSv/年を基準に置いているからだ。チェルノブイリ事故でさえ強制移住の基準は5mSv/年だった。
健康への影響がつとに指摘されているが、懸念は現実のものとなりつつある。福島市周辺に住む子供の尿からセシウム134とセシウム137が検出されたのだ。5月20~23日にかけて6才から16才までの10人の尿を採取し、フランス政府の公認機関ACROに送って調べた。結果は10人全員からセシウムが出た。
「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」の中手聖一代表が切り出した。「いつまでも悩み続ける訳にはいかない。政府にも決断して頂かないと私たちだけで避難できる訳ではありません」。
中手代表の鬼気迫る訴えは、しかし、肩透かしに終わった。父母らが福島の子供たち全員の尿検査を求めたのに対し政府の答えは「(役所に)持ち帰って検討する」(経産省原子力被災者生活支援チーム・渕上善弘氏)と悠長だった。
中手代表が「そんなこと言ってる間に子供たちは毎日被曝してるんですよ」と迫ると、渕上氏は「福島県と相談させて頂きたい」。
政府の回答は一事が万事このような調子だった。
「妊婦・乳幼児・子供に対しては成人よりも避難の基準を厳しくすべきではないか?」(質問書)との問いには次のように答えた。「緊急時避難準備区域では妊婦・子供に避難を勧めている」。
はぐらかすのもいい加減にしろと言いたい。皆、避難したいのは山々なのである。政府の補償がないから避難したくても経済的にできない。「勧めている」は空念仏なのである。
子供たちが毎日食べる学校給食も親たちには心配のタネだ。「学校給食を学校内被曝に含めないのはなぜか?」(質問書)に対する文科省の答えには唖然とした。「出荷制限措置が取られているので出回っている食材は問題ない」と言うのである。
役人はどこまで極楽トンボなのか。福島産の野菜から基準値を上回る放射性物質が検出されたり、産地偽装が見つかったりしていることを知らないのだろうか。(知っていながら役人答弁で繕ったのだろう)
2時間余りに及ぶ対政府交渉の終盤、仰天事実が明らかになった。どの省庁も「子供の被曝の積算統計を取っていない」というのだ。政府側のリーダー格である経産省原子力被災者生活支援チームの茶山秀一氏が明らかにした。「どこ(どの省庁)が足し算をしているのか?」という父母らの問いについ口を滑らせてしまったのである。
政府側の答弁は、東電株主総会での役員の回答とよく似ている。危機感も当事者意識もない。無責任極まりないのである。
政府のずさんな対応に母親代表の佐藤幸子さんは堪忍袋の緒が切れた。「あなた方はそんなこと(子供の被曝)も考えずに、子供を外で遊ばせ、給食を食べさせているんですか?」。怒気を一杯に含んだ佐藤さんの声が会場に響いた。
そもそも不自然なのは原発を再開したくてしようがない経産省が福島の父母らとの交渉にのこのこ出てきたことだ。「住民側はこう出てくる」というサンプルを得て玄海原発再開などの地元対策に活用するつもりなのだろうか。