シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンが外務省からパスポートを回収された。
「移動の自由」(憲法22条)、「表現の自由」(同21条)に抵触するなどと言った小難しい憲法論議ではなく、具体的な問題に落とし込もう。
フリーランスが紛争地帯に入らなかったら真実が明らかにされないまま終わってしまうということだ。
衝突あるいは一方的な攻撃が激化し、現地に留まることが危なくなったら、日本のマスコミは撤退する。
アフガニスタン、ガザ、ウクライナ・・・筆者は幾度も目のあたりにしてきた。
新聞は自社の記者を撤退させると外電の翻訳記事にAPやロイターから購入した写真を付けて報道する。テレビも同様に海外のテレビ局からもらった素材で報道する。
BBCはじめ欧米の主要メディアは、危険な状態になろうとも現地に残って報道を続ける(今回のシリアは例外)。
破壊のレベルはどれ位で、どのような虐殺が起きているのか。単純に言うと悪いのはどっちなのか、あるいは双方なのか。
この戦争は何に由来するのか。戦争の構図は今どうなっているのか・・・これらを現地に入って つまびらか にするのがジャーナリストだ。ジャーナリストは物的証拠としての写真や映像に言葉を加える。
本を読んだり学者の解説を聞いたりすれば済むというものではない。
今現在起きていることが書物に載っているだろうか? 今現在起きていることをリアルタイムで学者が知っているだろうか?
実際、先生たちが唱える“ご高説”は、紛争地域に行くと1ミリもなかったりする。
フリーランスからのパスポート回収は、権力にとって好都合だ。
この先、集団的自衛権行使の関連法が整備され、自衛隊がイラクやシリアなどに後方支援に送り出されたとする。
官邸のコントロールがきく記者クラブメディアだけ同行取材させ、不都合な真実を報道しかねないフリーランスからはパスポートを取り上げる・・・こうすれば、イラク戦争(2003年~)で米国を支援した小泉政権の失敗や中東で敵を作る安倍外交の実態は報道されずに済む。
安倍政権の言論統制は、驚くほど早手回しだ。昨年末に施行された特定秘密保護法は、人質救出の失敗を隠すのに絶大な効果を発揮している。
パスポート回収は報道統制の一環だ。安倍政権が新しい手を繰り出す度に統制は強まる。