
画家は黙々とペンを走らせていた。声を掛けるのが憚られた。=2日、神宮外苑 撮影:田中龍作=
緑のトンネルをくぐって吹いてくる風には色と香りが着いているようだった。体に心地良い。
3千本もの古木巨木を伐採する神宮外苑の巨大再開発―
イチョウ並木は伐採の対象とはなっていないが、わずか8mしか離れていない所(現在は50m超)に新神宮球場が建設される。深さ40mまで数百本もの杭が打たれて地下水の流れが変わる。
専門家は老木が枯死する危険性があると指摘する。

スケッチブックに描かれたイチョウ並木とカフェ。=2日、神宮外苑 撮影:田中龍作=
石のベンチに腰を下ろし広げたスケッチブックにペンを走らせる男性がいた。画家だった。
田中は聞いた。「この辺が再開発されるから描きに来られたのですか?」と。
「ええ、なくなるかもしれないので」。画家は答えた。ペンを止める時間も惜しそうだった。
民主主義国家と呼ばれるヨーロッパの都市は街路樹を大切にする。景観は生活環境に欠くことができないからだ。
海外の人々にそして後世の人々に、日本人の愚かさと狂気を伝えてほしい。画家の背中に願いを託さずにはいられなかった。

緑のトンネル。夏は冷気のシャワーが降ってくる。秋は黄金色に染まる。=2日、神宮外苑 撮影:田中龍作=
~終わり~