2022年2月24日未明、キーウ市内に雷が落ちたような爆発音が轟いた。ロシアのミサイルが着弾したのか。ウクライナ軍が迎撃したのか。
田中はタクシーを呼び爆発音の方向に走った。 キーウ空港だった。空港はすでに閉鎖され治安部隊と警察が固めていた。私服刑事は「ルシア(が来た)」とつぶやいた。
キーウ空港は首都の民間空港である。日本でいえば羽田だ。軍事空港(基地)ではなくても攻撃されるのである。
道路という道路は西に脱出する人々の車で一杯だった。まさに数珠つなぎである。
ATMにも長蛇の列ができていた。街のどのATMを見ても、現金を引き出そうとする人々が殺到していた。逃げ遅れることは確かだ。
「ロシアはウクライナに侵攻する」。米国のバイデン大統領らがしきりと警告していた。にもかかわらず現金を引き出していなかった人々が相当数いたということである。
ATMの札束は枚数に限度がある。何時間も並んで待ったのにもかかわらず現金を手にすることができなかった人もまた相当数いるはずだ。地獄の沙汰もカネしだい、というではないか。
ガソリンスタンド(GS)も長蛇の列だった。GSのガソリンにも限りがある。補給できなかったら、途中でガス欠である。路上で立ち往生すればロシア軍の戦車に踏み潰されるのがオチだ。
「■国も●国も攻めてきたりはしない」…巷にあふれる楽観論は死を招く。
《独裁政権は経済がどうなろうと侵攻する》
香港返還(1997年)前、中国軍事研究の専門家にインタビューしたことがある。
「自由都市香港は金を生むアヒルだ。経済優先の中国が香港の自由を奪ったりしない」。その専門家はしたり顔で言った。
香港がどうなったか。2019~2020年に吹き荒れた大規模弾圧を見れば言うまでもない。
「中国と台湾は経済で依存し合っているから侵攻はない」。インテリがよく口にする。これぞお花畑である。
「ウクライナに侵攻すればロシアに経済制裁を課す」。バイデン大統領が繰り返し警告していたが、プーチン大統領はウクライナに攻め込んだ。経済制裁に苦しみながらも懲りることなく戦争を続ける。
田中は30年以上、紛争地域を歩いてきた。戦争は不寛容に源を発する。寛容であれば、宗教が違おうが、体制が違おうが、民族が違おうが、武力侵攻したりしない。まして虐殺などありえない。
プーチン大統領が寛容か。明らかに否である。一年前に答えが出た。
習近平政権はどうだろう。「新彊ウイグル」「チベット」「香港」への政策が寛容といえるだろうか。
独裁政権に外交は通用しない。歴史を紐解けば明らかである。
最悪の事態となっても被害を最小限度に抑えられるよう、日本国民は陰謀論とお花畑から卒業すべきではないだろうか。
島国日本はウクライナと違って逃げ場所がない。食料も自給できないのだから。
~終わり~
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