世界原子力マフィアの頂点に立つIAEAの天野之弥事務局長がきょう、福井県を訪れ、西川一誠知事との間で覚書を締結した。筆者とIWJの原祐介氏は記者クラブではないが、正面突破で調印式場となった知事室に入れた。
「福井県における原子力発電や放射線利用施設の専門知識や経験を有する人材を活かし、世界の原子力の平和的で安全な利用のため必要となる人材を支援、育成する」というのが覚書の趣旨だ。
事業としては「IAEA主催の研修や国際会議の開催」「IAEAの制度等による研修生・研究者の受け入れ」などがある。
趣旨、事業ともになんとも抽象的だ。要は福井県に15基もある原発施設を活かして世界の原発利用をもっと進めよう、ということだろうか。
実際、天野事務局長は西川知事に向かって次のように語りかけた―
「福島の事故後、IAEA総会で“原子力の安全のための共同計画”を採択した。世界中の原発を見て回ったが、安全性はかなり向上した。ドイツをはじめ一部の国々が“原発はやめよう”ということになったが、世界を見回すとかなりの国々が、原発なしではやってゆけない」。
「IAEAの見通しだと2035年には(原発は)低く見積もって2割、多く見積もって9割増加している。地球温暖化防止のためにも経済競争力を増加させていくためにも安定した電力の供給が不可欠だ」。
驚くばかりのセールストークである。スリーマイル(1979年)、チェルノブイリ(1987年)、福島(2011年)と32年間で3回(平均で10年に1回)も事故を起こした原発を天野事務局長は褒めちぎった。
「原発銀座の固定化につながる」として覚書に反対する住民は、福井県に抗議の申し入れをした。覚書の内容が事前に県民に知らされなかったことにも、住民たちは反発を強めた。電源地域振興課の西岡務・課長補佐が対応した。
「調印する前に県民に諮るべきだ。我々は県民ですよ」「研究機関ではないIAEAとどうして調印するのか?」……厳しい質問が飛んだが、西岡課長補佐は「ご意見は承りました」としか答えなかった。
覚書は、トラブル続きで建設から40年を経ても、1Wの実用発電もしていない「もんじゅ」の延命を意図しているのではないか。こうした見方が住民の間にはある。IAEA主催による「高速増殖炉の研修」と言ってしまえばそれまでだからだ。高速増殖炉の実験は米国から押し付けられたとの説もある。
調印後のぶら下がり記者会見で、記者団から「再稼働をめぐって賛否両論あるなか、IAEAとの間で覚書に踏み切った理由はなにか?」と質問された西川知事は次のように答えた―
「以前からエネルギー研究開発拠点化計画があり、その考えに沿って進んでいる。今回IAEAとの間で改めて協定を結んで研修内容を充実させてゆく…」
原発推進派の知事らしいコメントと言えばそれまでだが、10年に1度の割合で起きる原発事故への対策は二の次のようだ。