
新国立競技場建設のための測量がすでに始まっている。テントの住人は着工までには出て行かなくてはならない。=千駄ヶ谷 写真:筆者=
オリンピックが開催されると、その国の行政はスラムを潰したりストリートチルドレンを隔離したりする。北京五輪(2008年)がそうであったし、リオデジャネイロ五輪(2016年)もそれが進行中だ。
東京五輪(2020年)の中心地となる国立競技場周辺を歩いた。競技場西側の外壁に寄り添うように約10張りの青テントが並ぶ。
競技場自体が明治公園の一角にあるため、テントも古木巨木の葉陰に隠れる。夏でも涼しい。タバコをくゆらせていた野宿者(ホームレス)に話を聞いた。
「都の役人は露骨に出て行けとは言わないが、去年くらいから『居られてもあと2年だからね』と立ち退きを匂わされるようになった」。
青テントの中は簡易ベッドがしつらえられ、食器や衣類が整然と置かれていた。ここで生活を始めて10年になる、という。
新国立競技場の建設着工は来年7月の予定だ。嫌でもそれまでにはテントを畳んで立ち退かなくてはならない。
「居られる間は居る。行く所はないんだから」。彼は淋しそうに話す。

テント入口には調味料や自家製の漬物が並ぶ。10年分の生活の匂いがした。=国立競技場そば 写真:筆者=
渋谷の宮下公園脇にも約30張りのテントが並ぶ。ここは役所が立ち退きを匂わすこともない。東京五輪開催は心配にならないのだろうか? ある野宿者(50代・男性)に聞いた―
「今は大丈夫だけど、いざオリンピックになったら外国人の手前、出て行ってくれなんてことになるかもしれない」。彼は不安げに語った。
スラムを潰しストリートチルドレンを隔離しようとするリオデジャネイロ市。2011年にはヘリや武装車両などを伴い、約3,000人の部隊を投入して最大のスラムを制圧する作戦を行った。
オリンピックの恩恵を受ける一握りが、繁栄に取り残された人々を排除する。「1%と99%」の図式というのであれば、庶民もまたオリンピックの犠牲者と言わねばならないだろう。