原子力規制委員会の田中俊一委員長がきょう、日本外国特派員協会で記者会見を持った。田中委員長は「汚染水の放出もやむなし」とする持論を繰り返した。こうしたなか、元スイス大使の村田光平氏が「一国家だけでは解決できないことを世界に訴えるべきだ」と迫った。
「今回の記者会見は(7月から施行された原発の)新規制基準の内容を説明するはずだったが、東電福島第一原発からの汚染水漏出問題が世界の関心を集めているため、この問題について答えることになった」。田中委員長は冒頭こう切り出した。
「福島第一原発は現在も不安定な状況にある。事故は収束した段階ではない。今後ともさまざまなことが起こりうる状態」。田中委員長は規制行政のトップとして、民主党政権時に出された「収束宣言」を否定した。
汚染水問題については次のように述べた。「地下水の流入を止めながらALPS(多核種除去設備)を使って堅牢なタンクに保管するが、濃度を基準値以下にして汚染水を放出することは必要かもしれない」。
田中委員長は過去に原子力規制委員会の定例記者会見で「基準値以下の汚染水を海に放出するのはやむをえない」と述べて物議を醸したことがある。
きょうの会見では「基準値を超える物は出させない」と強調したうえで「世界の原子力施設からは放射性物質が通常の場合でも排出されている」と話した。
一方で田中委員長は「(猛毒の放射性物質)トリチウムはALPSでは減らせない」とも明らかにした。タンクからの汚染漏れについては「外国から見れば監督十分ではなかった」と神妙な面持ちで語った。
「4号機の核燃料棒取り出しで最悪のシナリオは何か?」「作業員の被ばくはどうなっているのか?」などきわどい質問には答えなかった。
記者会見で出る質問と答弁は言い尽くされたものばかりだったが、元スイス大使の村田光平氏の質問が際立った。
村田光平氏は在職中に反原発文書を配布したとして批判された「反骨の外交官」だ。福島の原発事故では昨年3月、参議院予算委員会の公聴会に公述人として出席、4号機の倒壊と燃料棒の問題について指摘し、「世界の安全保障問題として対応が必要だ」と訴えたことでも知られる。
村田氏は「電力会社と一国家だけでは解決できないことを世界に知らせるべきだ。総理直轄下に事故対策本部と国際タスクフォースを設置するべきだ」と田中委員長に迫った。
田中氏は「ご指摘のことは伺っておくと言うしかなく、私の立場ではコメントできない」とかわした。
記者会見終了後、筆者は村田元大使に話を聞いた―
「世界が(汚染水問題に)どんどん目覚めている。こんな時にオリンピックをやったら、日本の恥だ。(事故処理は)国際協力なしにやってゆけない。(問題は)これからさらに表面化してくる。その際の国際世論は凄いものになる」。国際情勢をよく知る村田元大使は、今後の動きを見据えながら語った。