東電の付け焼き刃の対策と政府の危機意識のない対応が、人類史上かつてない海洋汚染を引き起こそうとしている。
政府の災害対策本部によれば、毎日300トンもの放射能汚染水が福島第一原発から海に漏れ出している。セシウムばかりでなく、ストロンチウムやらトリチウムやらの猛毒が混じった汚染水が、毎日毎日ドラム缶1,500本分も海に流れ出しているのだ。
福島第一原発周辺には富岡湧水という名の大きな地下水脈が走る。東電は大量の汚染水が海にあふれ出ることを知っていた―
東電は事故前、建屋の周辺に57か所もの井戸を掘り、毎日850トンもの地下水を汲み上げていたのである。だが地震と津波でポンプが使えなくなり地下水を汲み上げることができなくなった。
東電の試算によれば850トンのうち400トンは建屋に行く。残る450トンは海に流れ出る。
東電が政府に上記を報告したのが今年の4月26日である。だが、政府は参院選挙もあり表だって動かなかった。(海に流出する汚染水の量が、災害対策本部と東電の間で150トンの開きがあるのは、調整の結果だろうか?)
8日、環境団体などが国会内で対政府交渉を持った。経産省資源エネルギー庁、原子力規制庁などの若手官僚が答弁した。
驚いたのは汚染水問題に対する政府の危機感のなさだ。東電から原子力規制庁に送られるはずのモニタリング・データが昨年12月初旬から今年5月19日までの間、送られていなかった。
環境団体がこれを追及すると原子力規制庁の官僚は「知らなかった」と臆面もなく答えた。この官僚はモニタリング担当の課長補佐なのである。
山側から大量の地下水が流れ込んでいるにもかかわらず海側だけ止水すれば、水が溢れ出すのは自明の理である。この点を追及すると資源エネルギー庁の官僚は次のように答えた―
「とれるアクションをとった。海側を優先したことは問題とは思っていない。(ただ)対策を打ったことによって新たなリスクを生んだことは問題だと思っている」。他人事の見本のようなコメントだ。
いずれにせよ山側から流れ込む大量の地下水が建屋に入らないようにしなければならない。政府は国費を使って1、2、3号機の建屋の回りを凍土で固めることを決めた。
この工法は前例がなく問題点が多い。範囲が広大であるため完成に2年間もかかる。土を凍らせるのに冷却剤を地下に送り続けなければならない。当然、莫大なコストがかかる。あげくに効果は未知数だ。
もっと問題なのはゼネコンとの交渉が非公開だったということだ。
「国費を使うのになぜ公開にしないのか?」8日の対政府交渉で環境団体が資源エネルギー庁の役人を追及すると、いかにも役人らしい答えでかわされた―「技術面の企業秘密があるため非公開とした」。
莫大なコストがかかるため国費投入を決めたのだろうが、除染同様、ゼネコンを儲けさせるだけだ。それでも汚染の流出が止まればよいが、そうはいかないかもしれない。
デブリ(メルトダウンしアンパンのようになった核燃料)が、すでに格納容器から抜け落ちて地中にめり込んでいるとの見方がある。50mを超える深い地下水脈に放射性物質が流れ込んでいることになる。
何十兆円つぎ込もうが、汚染は止まらない。「賽(さい)の河原に石を積む」ような作業だ。日本の国家財政が破たんしてもなお世界の海を汚染し続ける。