都合の悪い質問は役所と政治家が結託して無視する。日頃は国民の知る権利を振りかざす記者クラブが、それを問題にしない。
自民党政権時(09年、民主党に政権が代わるまで)、大臣記者会見は馴れ合いもあって行政のコントロール下に置かれてきた。自民党の政権復帰後、環境省で大臣記者会見がオープン化される前の姿に戻りつつある。
朝日新聞が4日付け朝刊で報じた「手抜き除染」をめぐる、環境省と石原伸晃大臣側の対応がそれだ。
朝日新聞の記者は続報を書く狙いもあり、11日の記者会見で手を挙げ続けた。だが、指名されることはなかった。フリーランスならともかくクラブ詰めの記者が当たらないのは、明らかに異常だ。
環境省は除染費用として2012年度だけでも1兆1,088億円もの予算を計上している。巨額な費用を投じた事業で「手抜き」があったとなれば、環境省の責任が問われる。最高責任者である大臣は、さらに厳しい立場に置かれる。
会見の進行役(記者を指名する)を務める広報室と大臣側は、手抜き問題を追及させないことが“危機管理”なのである。
広報室には大臣を“守らなければならない”という本能的な体質もある。
「大臣室と(朝日新聞)記者の板挟みに遭って大変ですね」。筆者が水を向けると広報室長は「お分かり頂けますか?」と頭を掻いた。
不思議なのが、同じクラブ員が無視されていることを問題にしない記者クラブの面々だ。次に自社が追及したい時に指名されなくても当然なのである。明日はわが身だ。役所、政治家、記者クラブの馴れ合いが、国民の知る権利を妨げてきた、といっても過言ではない。
きょうの記者会見でフリーランスの上出義樹記者がこれに風穴を開けた。「前回の記者会見で朝日新聞の記者が一所懸命手をあげているのに指名されなかった。石原大臣が逃げているように見えた。国民のためにも大臣は説明責任を果たすべき」。上出記者はこう追及した。
石原大臣は「限られた時間で多くの記者の質問に答えなければならない。CO2の問題で危機意識が強い…」などと説得力のない釈明をした。返答に窮し、苦し紛れに言葉を連ねたのである。
「多くの記者の質問に答えなければならない」と言うのであれば、なぜ朝日の記者だけ外したのだろうか?
幹事社のNHK記者は「手抜き除染」とも呼ばず「不適切な除染」という言葉を用いて質問した。「不適切な除染の問題ですが、元請け会社から聴取した結果、不適切な除染は新たにあったのでしょうか?」と。
石原大臣は「除染は復興の基盤なんですねえ…(中略)あるのかないのかしっかり調べて、今後の方針を決める」と答えた。大臣が颯爽と答えることができるような質問を幹事社が向けたようにも受け取れた。