冬が近づいてきた。官邸前に集まった人々は、手をこすり合わせながら、「原発反対」を訴える。最盛期(6~7月)のような、参加者同士がぴったりとくっついての熱気が恋しく感じるが、官邸前の抗議行動は進化を続けている。
2日の集会には上関原発反対運動の現地からスラップ訴訟(※)に巻き込まれた2人の住民が応援に駆けつけた。2009年の埋め立て準備工事を妨害したとして、中国電力から約4,800万円もの損害賠償を請求されているのである。
「初めて官邸前抗議行動に来た。現地の戦いと、東京の運動が連帯して、大きなうねりとなって来ていると思う。山口県知事は建設の免許更新を認めていないが、政権が変わればどうなるか分からない。楽観はしていない」。口元を引き締めて語る岡田和樹(26歳)さんからは、固い決意が感じられる。
官邸前から国会議事堂へ向かう歩道では、色とりどりのキャンドルから甘い香りが漂っていた。「Beautiful Energy(美しいエネルギー)」というイベントを立ち上げたグループが、「YES」という文字を掲げている。イギリス出身のモデル、ディーンさん(男性28歳)は、昨年1年間、被災地へ通いボランティア活動を続けていたという。
「夏から見たらずいぶん人が減ってしまった。みんな生活に疲れていると思う。だから原発にNO! 再稼働にNO! だけではなく、(再生可能エネルギーなど)良いことにYES!と言う前向きなメッセージを出して、参加していない人の興味も引きたい。再びこの歩道がいっぱいになるように、キャンドルをたくさん並べて、温かい飲み物などを提供しようと考えている。参加者もそうでない人も立ち止まって話が出来たらいい」。寒さで震える筆者を尻目に、シャツ一枚と薄着のディーンさんは熱っぽく語った。
今や全国に波及した官邸前抗議行動(再稼働反対行動)。その良いところは、枠を作らないで、個人で出来る事を最大限することだ。ここで取材を続けていて感じることは、参加者たちの個性が溢れていることである。
「赤信号みんなで渡れば怖くない」から脱して、一人ひとりが原発の怖さと向き合って参加しているのだ。「すっかり下火になった」などとタカを括っている政治家、官僚、財界人たちは、そのうち手痛いしっぺ返しを食うだろう。
◇
※スラップ(SLAPP)訴訟:
財力のある団体や個人が原告となり、資力のない市井の人に、威圧・恫喝を目的として起こす訴訟のこと。SLAPP:Strategic Lawsuit Against Public Participation