もし福島の事故が起きなければ、今頃は原発の新規建設と原発輸出が相次いでいただろう。事故を受けてもなお、完全に脱原発に舵を切ることなく民主党政権が終わった。
野田政権は掛け声とウラハラに脱原発に後ろ向きだった。再稼働反対の民意を無視。造反を恐れ原子力規制委の人事案を国会にかけることもできなかった。
「再稼働反対、原発廃炉」を訴えて、市民たちが全国各地で金曜抗議集会を開いてきた。“発祥地”の官邸前、北海道から沖縄まで約100か所にものぼる。暑い日も寒い日も彼らは抗議の声をあげ続けてきたが、願いは権力中枢に届いていない。
衆議院が解散し、来月16日には都知事選と総選挙が同時に行われる。マスコミと与党民主党、最大野党自民党がいくら隠しても、選挙の最大の争点は「原発」となる。
「一人でも多くの脱原発議員を国会へ」。官邸前に駆けつけた市民がそんな思いをみなぎらせた。16日夕の金曜集会はいつも以上に熱がこもった。
『原発をなくす人に投票します』と書いたプラカードを掲げた女性(50代・病院事務)は、神戸市からだ。
「脱原発は党派を超えて訴えられる問題。脱原発世論が盛り上がっている今、「脱原発」を訴えないと当選出来ない雰囲気を作る事が必要。選挙をすることで、あらためて原発を考えるきっかけにもなると思う」。こう話す彼女は95年に起きた阪神・淡路大震災の被災者だ。
「私の住む長田区も相当な被害を受けた。家を失って帰って来られなかった被災者も多いが、頑張って帰ってきた人もいる。しかし、福島では帰れる元気があっても帰ることができない。それが原発事故だ」。彼女は同じ被災者として福島の人々が背負った辛苦に共感できる、とも語った。
マスコミは早くも「安倍自民党内閣」が誕生したかのようなキャンペーンを張る。市民たちは、原発推進内閣誕生を警戒しつつも、「民衆の力が試される時がきた」と決意をあらたにしている。
「マスコミが作ろうとする世論と真実はかけ離れている。自民党が政権を取るとは思っていない。もうマスコミにはだまされない。福島に“原爆が落とされた”ことを国民は忘れるわけがない。同時に、短い期間でどうやって本当の脱原発議員を広めるかも課題」。『有権者』と書いた名札をつけた都内在住の男性(40代、会社員)は力強く話した。
首相官邸前、国会議事堂前など3つのスピーチエリアを回ったが、どこも選挙へ向けた意気込みを語る人々で溢れていた。
神奈川県平塚市から来た男性(60代)は「自民党だけは何としても政権を取らせたくない。そもそも、一つの政党が政権を握るのではなく、小さい党が政策でまとまって国の方針を決めるのがいいと思う」。男性は多様化して行く社会を一つに括ろうとする政治体制に疑問を投げかけた。
「今、国会はゼロの状態。なんだかいつもより空気が澄んでいるような気がする。国会へ脱原発の議員を送り込みましょう!」スピーカーから、女性の明るい声が聞こえた。「もしかしたら“原発ニッポン”が変わるかもしれない」、そんな気持ちにさせられた。